大学院理工学研究科の佐藤久子教授と山下浩准教授らの論文がCLAY SCIENCE誌の論文賞に選ばれました。【9月7日(水)】

 令和4年9月7日(水)、大学院理工学研究科の佐藤久子教授(理学系)と山下浩准教授(工学系)らの論文が、一般社団法人日本粘土学会が発行している英文学術雑誌であるCLAY SCIENCE誌の論文賞に選ばれました。
 本賞は、2021年度に同誌に発表された論文の中から最も評価されたものに贈られます。
 本研究は、2011年3月11日の福島第一原発の事故を受けて、土壌中のセシウムイオン形態解明に基づく土壌の浄化と減容化について 、粘土科学の立場から研究したものです。
 非放射性物質の多量のセシウムイオンを用いたモデル実験ではメカニズムや汚染土壌の浄化などを解析できても、実際の微量なセシウムイオンによる放射性汚染土壌での解明はかなり困難を極めます。時間が経過するにつれて、その困難さが増していることも事実です。
 このような状況の中で、物質・材料研究機構、東京大学、法政大学、NPO法人環境測定品質管理センター、愛媛大学では環境研究総合推進費の支援を受けて、研究を進めてきました。このうち愛媛大学では、モデル土壌を用いてマイクロウエブによる連続処理方法の検討を行いました。この論文は現段階の土壌中のセシウムの動態とセシウム除去のプロセスフローとその効果を示し、高い評価を得ることができました。

論文題目:“Removal of cesium ions from radioactively contaminated soils using microwave treatment “ Clay Science, 2021, 25, 7-11.
著者:Kenji Tamura,Hiroshi Yamashita, Toshihiro Kogure, Masatoshi Morita, Akihiko Yamagishi and Hisako Sato

工学部附属船舶海洋工学センターサマースクールを開催しました【令和4年9月16日(金)】

 令和4年9月16日(金)、造船関連企業の若手技術者と学生との交流を図るため、愛媛大学工学部で、船舶海洋工学センターサマースクールを開催しました。造船所4社から各1人ずつ、愛媛大学学生4人および教員2人が参加しました。
 企業の方と学生との共同作業(ダイヤモンドコーティングの実験)、および造船業に関する質疑応答の時間を通じて、普段の業務や学業と異なる分野の研究や、学生が造船業に対して持っている疑問や造船業の魅力に触れる機会となりました。

 

【研究紹介】尾崎良太郎先生(理工学研究科電子情報工学専攻)

工学に興味を持ったきっかけや先生になったきっかけは? 
 もともと、ガンダムの影響なのか、宇宙やロボットには興味があったのですが、特に理科が大好きだったとかではなく、普通の生徒でした。ただ、高校のテストで、他の科目より点が取れたことから物理が徐々に好きになっていきました。愛媛大学工学部に進学し、普通の学生生活を送り、学部卒業後にすぐに就職しました。時代は就職氷河期だったのですが、なんとか運良く、地元の会社に就職することができました。しかし、色々な事情があって半年で会社を退職しました。会社を辞めることを決める前は、「就職が難しい時代に急に無職になる…」とすごく悩みましたが、一度きりの人生だからと覚悟を決めて決断しました。退職後は、愛媛大学大学院に進学しました。大学院では、自分のお金で学費を払っていたので、お金がもったいないと思い、日々まじめに勉強・研究していたところ、先生から博士課程に進学することを勧められました。大学院卒業後は、会社に就職するつもりだったため、初めは進学する気はありませんでした。あるとき、自分の中で会社を辞めた時の覚悟はこんなものだったのかと思い直し、周囲ともよく相談した結果、大阪大学で博士課程に進むことを決断しました。その後、どうせ勉強するならとことん追求して研究者になろうと思い、現在に至っています。

尾崎良太郎先生


研究内容は?
 初めは液晶応用を主に研究していました。液晶と聞くと、ディスプレイを想像すると思いますが、それ以外でレーザーやアンテナなどほかの使い方を検討していました。今は、液晶の研究と並行して絶縁材料や炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、真珠なども研究しています。

工学と真珠、想像もしない組み合わせですが、真珠の研究をしようと思ったきっかけは?
 真珠の研究に関わるとは、考えたこともありませんでした。外部から誘いを受けたことがきっかけです。その人は、ものすごい熱意のある方で、気が付いたら真珠の研究に巻き込まれていたという感じです。

具体的にどんな研究をされていますか?
 真珠は貝殻にあるアラゴナイト結晶層という層の厚さの違いで見た目が変化します。厚くなるにつれてオレンジ、ピンク、みどりと色が循環していきます。養殖真珠はピース貝と呼ばれる貝の外套膜の一部と核を母貝に入れることで生産しています。ピース貝の色が良いほど良い真珠ができると思ってもらって構いません。そのピース貝ですが、これまでは目視でピース貝の色を選別していましたが、我々はアラゴナイト結晶層厚を計測する装置を開発して、目視ではなく、スペクトルを調べ、数値に基づく選別を行えるようにしました。それによって、より正確にピース貝の色、すなわち、真珠の色をコントロールすることができるようになりました。
 また、真珠がなぜ美しい色を創り出すのか?ということにも興味があったので、真珠の輝きの原理なども研究しています。真珠のなかで光がどのように伝わるのかを考え、その物理現象をどうすれば数式で再現できるかを考えています。最初の大きな壁だったのは、光の散乱と干渉です。真珠のなかでは、光の散乱と干渉が起こっているので、これを式で表現すれば良いだけなのですが、干渉の計算では光を波として扱うのですが、散乱の計算では光を波として扱っては計算することは難しいのです。散乱では、波というより光のエネルギーに注目して計算します。では、光のエネルギーに注目して計算したら良いのでは?と思うかもしませんが、光のエネルギーに注目すると、今度は、光の干渉の計算ができません。この干渉と散乱の計算をうまく両立して計算させる方法を思いつくのに3~4年かかりました。その後は、その計算結果を使って真珠の外観を再現することに成功し、真珠の構造がこうなれば、こんな色を示すといった予測をすることが可能になりました。現在は、その技術をさらに発展させて光沢や映り込みを加え、本物の真珠かCGの真珠か区別がつかないほどのリアルなCGを作れるようになってきています。これらの研究を通して、少しでも真珠業界の発展に貢献できればと思っています。

真珠(一番右はプラスチックのビーズ) 中央にある金色の真珠は数万円以上の価値がある
真珠の説明をする尾崎先生


難しくあきらめたりすることは?
 難しいからといって、あきらめることはありませんでした。これは私の考えですが、この世の中に存在しているものは、たぶん全て計算できると思っています。だから、今できていない難しいことは、「きっとできるけど、今は分からないだけ。」と思っているので、やめようというようなは考えにはならないです。
 ちなみに、分からないことが分かることに変わるきっかけは、学生と話しているときが多いです。例えば、研究結果を見て学生と議論しているときに「あれ?もしかして、こうじゃない…?」と突然、閃きます。
 でも、やっぱり、研究で一番大事なのは、学生さんの突破力です。教員は総合力はあるのですが、学生ほど突破力をもっていません。なぜ学生が突破力があるか?ということの説明は難しいですが、やっぱり、若さが関係しているだと思います。突破力ってすごく大切で、全部を知らなくても良いんですよ。全般的な知識がなくても、一点集中でそこだけ突き破れる力があれば、それで構わないんです。私の研究室では学生が主となって研究しており、若い人の突破力で新しい発見が生まれています。

今後の展望は?
 今、全く想像ができないことをしたいです。今の自分の頭の中にあることの延長線上のものは、正直あまり面白くなくて、真珠の研究のように、まさか自分が関わると思っていなかったような未来予想ができないこと、想定外のことの方が面白いと思うので、そういった研究をしたいです。あとは、世の中にあるものを全て計算したいという思いもあります。いろいろなものを計算することが好きなのだと思います。
 今後、それをどう実現していくかということですが、私は研究室で「今できることをやらない」ということを心がけています。だから、学生さんの研究でも、その学生が絶対にできないことしかテーマにしません。いわば無茶ぶりです。人は、自分でもできそうなことをやりたいと思う傾向が強いです。ただ、自分ができそうなことばかり選んでやっていると、できそうなことの範囲からいつまでたっても出ることはできません。そもそも、成長というのは「できないことができるようになること」ですよね?だから、研究室では「できないこと」にしか取り組まないようにしています。さらにいうと、私の研究室では、私のできないことを学生さんに研究してもらうことが多いです。どうせ学生さんは何も知らないのだから、どうせだったら、私の知らないことを勉強してもらいます。例えば、私ができることを学生に教えると、単に私の劣化版ができ上がるだけです。それってあまり意味がないと思っています。そもそも、研究者というのは「誰もできない・知らないこと」に挑戦することが重要なことだと思っています。だから、学生さんにはその練習・経験をしてほしいと思い、研究室では誰も経験がないことを研究テーマとしてやってみてと依頼します。先ほども、言いましたが、人はできそうなことに手を伸ばしがちです。でもよく考えてみてください。自分が簡単にできることって、世間的に「すごいこと」だと思いますか?きっと、他の人でも簡単にできますよね。だから、今できることをやらない。できないことに挑戦することを、とにかく、それを大切にしています。今後も、今自分たちができないことにチャレンジし続けて、いつか、「今自分たちができないこと」が「世界の誰もできないこと」と同じ意味になるようにしたいと思っています。

※本記事は愛媛大学インターンシップの一環として作成されました。

【研究紹介】河合慶有先生(理工学研究科生産環境工学専攻)

工学に興味を持ったきっかけは?
 幼い頃は、山や川に囲まれた環境で育ち、よく虫を捕りに行ったり、川で遊んだりしていました。身の回りに自然が多く、橋梁、トンネル、堤防やダム等の鋼やコンクリートでできた構造物が身近にある生活を送っていたからか、気がついたら大規模なインフラ構造物に興味を持っていました。そのせいもあってか、中学生の時には土木分野へ進みたいと心に決めていました。

河合慶有先生

 

大学の先生になろうと思ったきっかけは?
 大学卒業後、企業に就職し海外プラントエンジニアリング会社でシビルエンジニアとして仕事をしていましたが、そこで様々な経験をするうちに、自分の力不足を強く感じるようになりました。「このままでは駄目だ!」と一念発起し、大学時代の恩師の紹介もありシンガポール国立大学の大学院に進学しました。大学院にはシンガポール政府の奨学金を受給して進学しましたが、アジアトップクラスの大学で、欧米諸国、アジアの国々からの優秀な学生がひしめく中、とにかく必死に勉学や研究に励みました。
 英国、ドイツ、イラン、インド、ベトナム、インドネシアや中国など様々な国籍の学生が在学する環境で、様々な言語が飛び交い考え方の違いに触れ、ここには日本の大学環境では得られないものがたくさんあると感じました。語学力もそうです。異なる背景も持つ教員や学生と議論し研究を進めていくためには、より実践的な英語(グロービッシュと呼ばれる)を身につける必要があると痛感しました。Ph.D.取得後は、コンクリートの研究を続けながら世界級キャリアを積み重ねるとともに、自分のようなグローバル人材を育成したいとの思いから大学教員になりました。

研究内容は? 
 鉄筋コンクリートの耐久性が専門です。近年は、微生物を用いたひび割れ補修や腐食抑制技術について研究しています。
 「ところ変わればコンクリートも変わる」これは大学時代の恩師がおっしゃっていたことです。コンクリートはそれぞれの地域で調達できる材料を使用します。いわば地産地消です。そのため、国、地域でコンクリートに含まれる材料は変わるのです。加えて、コンクリートは水の次に地球上で使用されてきた材料で、世界中どこにでもあります。つまり、国際学会に行くと「様々な」コンクリートを研究しているいろいろな研究者と語らうことができ、新たな繋がりがどんどん増えていきます。コンクリートの研究を通じて国内外の多様な研究者と出会うことも研究のモチベーションの一つです。
 卒論の頃からコンクリートについて研究していましたが、さらに視野を広げることができた出来事がありました。2015年にコンクリートの微生物によるひび割れ補修で世界をリードしているオランダのデルフト工科大学に留学したことです。シンガポール国立大学で学んでいた頃、デルフト工科大学のブリューゲル教授の微生物の補修技術に関する講演を聞いたのがそのきっかけでした。その後、大学教員となっていた私は、自分が研究している分野で世界をリードしているMicroLabのブリューゲル教授のもとで学びたいと思い、大学院生時代に聞いた講演の感想と学びたい熱意をメールで伝えました。その後、幸運にも受け入れOKのメールをいただくことができ、半年間の短期留学が決まりました。現地に行くと、研究室の学生達が「こんなことは通常有り得ないんだぞ!なんてラッキーなんだ。」と何度も言われました(笑)。そこで学んだ微生物を用いる補修技術が今の私の研究に繋がっていて、近年では社会インフラ材料学として既存のコンクリート工学以外の工学的アプローチを取り入れ、研究では微生物など幅広くいろいろな材料を扱うようになりました。
 コンクリートの中には鋼材が入っています。コンクリートのアルカリ環境下では鉄の表面は不動態被膜で覆われ、酸化しにくい状態になっています。しかし、時間が経つとコンクリートのひび割れからの塩分や二酸化炭素の侵入によって不動態被膜が破壊されてしまい、鉄筋が錆びてしまいます。さらに、腐食生成物の膨張によって新たなひび割れが発生します。そうやってインフラ構造物の鉄筋コンクリートはどんどん劣化していきます。それらを未然に防ぐための自己治癒によるひび割れ補修・腐食抑制技術が研究対象です。
 ひび割れ補修では、納豆菌の代謝によって析出する炭酸カルシウムが水分や酸素の供給源となる隙間を自動的で埋め、高い止水効果を得られます。一方、好気性微生物をセメントに練り混ぜることで溶存酸素量を低減し、鉄筋周辺を貧酸素状態にする方法が腐食抑制技術です。好気性細菌は温度・湿度の変化に強く、10~11までの高いpHにも耐えることができます。また、大きさが2~3㎛でコンクリート内部の空隙よりも小さいため、固まった後も死滅せずにひび割れ等から供給された酸素を消費することができます。この研究は2015年から始めたのですが、コンクリート内部の酸素拡散が腐食反応を律速することを証明することが難しく、論文が認められるまでに5年もかかりました。

研究内容(左:ひび割れ補修、右:腐食抑制技術)

 

先生のコンクリートの技術はどんなところで使われていますか?
 来年までに静岡市の海釣り公園の整備事業で試験施工を実施する予定です。自己治癒材の使用はコストアップもあるのですが、公共の建設事業には過去の施工実績が必要となります。ですので、新たな材料を造って世界で認められるような論文を出しても実際の構造物に使用された実績がなければ、なかなか社会実装するのは難しいのです。今回の試験施工に続いて実構造物での施工実績を増やすために、広く情報を発信することが重要だと思っています。

今後の展望は?
 これまでの研究成果を踏まえて、地域ごとの材料・環境の違いを考慮して、自己治癒材の効果的な適用方法を研究したいと思っています。特に、地球温暖化や異常気象等による環境条件の変化はコンクリートの劣化に大きな影響を与えるので、より効果的な補修材料を模索したいと考えています。

※本記事は愛媛大学インターンシップの一環として作成されました。

愛媛大学工学部附属船舶海洋工学センターコンソーシアム会議及び講演会を開催しました【8月19日(金)】

 令和4年8月19日(金)、愛媛大学工学部附属船舶海洋工学センターコンソーシアム会議及び講演会をオンラインで開催しました。
 本会議は、愛媛県、今治市、四国運輸局をはじめ造船・舶用関連企業並びに金融機関の代表者で構成され、本学学長が議長を務めています。会議では、令和3年度の本センターの活動内容及び令和4年度の活動計画について報告しました。
 続いて、講演会を実施し、工学部附属船舶海洋工学センターの田中進センター長の挨拶の後、関西設計株式会社技術顧問・大阪大学・九州大学名誉教授であり、当センターのアドバイザーでもある柏木 正氏による「海事産業での変革のための新動向と海洋人材の育成」と題した講演が行われました。
 本講演会には、コンソーシアム参加企業、工学部の教職員等約40人が参加し、講演後には出席者との質疑応答や活発な意見交換が行われ大変有意義な時間となりました。

柏木氏による講演の様子