【研究紹介】尾崎良太郎先生(理工学研究科電子情報工学専攻)

工学に興味を持ったきっかけや先生になったきっかけは? 
 もともと、ガンダムの影響なのか、宇宙やロボットには興味があったのですが、特に理科が大好きだったとかではなく、普通の生徒でした。ただ、高校のテストで、他の科目より点が取れたことから物理が徐々に好きになっていきました。愛媛大学工学部に進学し、普通の学生生活を送り、学部卒業後にすぐに就職しました。時代は就職氷河期だったのですが、なんとか運良く、地元の会社に就職することができました。しかし、色々な事情があって半年で会社を退職しました。会社を辞めることを決める前は、「就職が難しい時代に急に無職になる…」とすごく悩みましたが、一度きりの人生だからと覚悟を決めて決断しました。退職後は、愛媛大学大学院に進学しました。大学院では、自分のお金で学費を払っていたので、お金がもったいないと思い、日々まじめに勉強・研究していたところ、先生から博士課程に進学することを勧められました。大学院卒業後は、会社に就職するつもりだったため、初めは進学する気はありませんでした。あるとき、自分の中で会社を辞めた時の覚悟はこんなものだったのかと思い直し、周囲ともよく相談した結果、大阪大学で博士課程に進むことを決断しました。その後、どうせ勉強するならとことん追求して研究者になろうと思い、現在に至っています。

尾崎良太郎先生


研究内容は?
 初めは液晶応用を主に研究していました。液晶と聞くと、ディスプレイを想像すると思いますが、それ以外でレーザーやアンテナなどほかの使い方を検討していました。今は、液晶の研究と並行して絶縁材料や炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、真珠なども研究しています。

工学と真珠、想像もしない組み合わせですが、真珠の研究をしようと思ったきっかけは?
 真珠の研究に関わるとは、考えたこともありませんでした。外部から誘いを受けたことがきっかけです。その人は、ものすごい熱意のある方で、気が付いたら真珠の研究に巻き込まれていたという感じです。

具体的にどんな研究をされていますか?
 真珠は貝殻にあるアラゴナイト結晶層という層の厚さの違いで見た目が変化します。厚くなるにつれてオレンジ、ピンク、みどりと色が循環していきます。養殖真珠はピース貝と呼ばれる貝の外套膜の一部と核を母貝に入れることで生産しています。ピース貝の色が良いほど良い真珠ができると思ってもらって構いません。そのピース貝ですが、これまでは目視でピース貝の色を選別していましたが、我々はアラゴナイト結晶層厚を計測する装置を開発して、目視ではなく、スペクトルを調べ、数値に基づく選別を行えるようにしました。それによって、より正確にピース貝の色、すなわち、真珠の色をコントロールすることができるようになりました。
 また、真珠がなぜ美しい色を創り出すのか?ということにも興味があったので、真珠の輝きの原理なども研究しています。真珠のなかで光がどのように伝わるのかを考え、その物理現象をどうすれば数式で再現できるかを考えています。最初の大きな壁だったのは、光の散乱と干渉です。真珠のなかでは、光の散乱と干渉が起こっているので、これを式で表現すれば良いだけなのですが、干渉の計算では光を波として扱うのですが、散乱の計算では光を波として扱っては計算することは難しいのです。散乱では、波というより光のエネルギーに注目して計算します。では、光のエネルギーに注目して計算したら良いのでは?と思うかもしませんが、光のエネルギーに注目すると、今度は、光の干渉の計算ができません。この干渉と散乱の計算をうまく両立して計算させる方法を思いつくのに3~4年かかりました。その後は、その計算結果を使って真珠の外観を再現することに成功し、真珠の構造がこうなれば、こんな色を示すといった予測をすることが可能になりました。現在は、その技術をさらに発展させて光沢や映り込みを加え、本物の真珠かCGの真珠か区別がつかないほどのリアルなCGを作れるようになってきています。これらの研究を通して、少しでも真珠業界の発展に貢献できればと思っています。

真珠(一番右はプラスチックのビーズ) 中央にある金色の真珠は数万円以上の価値がある
真珠の説明をする尾崎先生


難しくあきらめたりすることは?
 難しいからといって、あきらめることはありませんでした。これは私の考えですが、この世の中に存在しているものは、たぶん全て計算できると思っています。だから、今できていない難しいことは、「きっとできるけど、今は分からないだけ。」と思っているので、やめようというようなは考えにはならないです。
 ちなみに、分からないことが分かることに変わるきっかけは、学生と話しているときが多いです。例えば、研究結果を見て学生と議論しているときに「あれ?もしかして、こうじゃない…?」と突然、閃きます。
 でも、やっぱり、研究で一番大事なのは、学生さんの突破力です。教員は総合力はあるのですが、学生ほど突破力をもっていません。なぜ学生が突破力があるか?ということの説明は難しいですが、やっぱり、若さが関係しているだと思います。突破力ってすごく大切で、全部を知らなくても良いんですよ。全般的な知識がなくても、一点集中でそこだけ突き破れる力があれば、それで構わないんです。私の研究室では学生が主となって研究しており、若い人の突破力で新しい発見が生まれています。

今後の展望は?
 今、全く想像ができないことをしたいです。今の自分の頭の中にあることの延長線上のものは、正直あまり面白くなくて、真珠の研究のように、まさか自分が関わると思っていなかったような未来予想ができないこと、想定外のことの方が面白いと思うので、そういった研究をしたいです。あとは、世の中にあるものを全て計算したいという思いもあります。いろいろなものを計算することが好きなのだと思います。
 今後、それをどう実現していくかということですが、私は研究室で「今できることをやらない」ということを心がけています。だから、学生さんの研究でも、その学生が絶対にできないことしかテーマにしません。いわば無茶ぶりです。人は、自分でもできそうなことをやりたいと思う傾向が強いです。ただ、自分ができそうなことばかり選んでやっていると、できそうなことの範囲からいつまでたっても出ることはできません。そもそも、成長というのは「できないことができるようになること」ですよね?だから、研究室では「できないこと」にしか取り組まないようにしています。さらにいうと、私の研究室では、私のできないことを学生さんに研究してもらうことが多いです。どうせ学生さんは何も知らないのだから、どうせだったら、私の知らないことを勉強してもらいます。例えば、私ができることを学生に教えると、単に私の劣化版ができ上がるだけです。それってあまり意味がないと思っています。そもそも、研究者というのは「誰もできない・知らないこと」に挑戦することが重要なことだと思っています。だから、学生さんにはその練習・経験をしてほしいと思い、研究室では誰も経験がないことを研究テーマとしてやってみてと依頼します。先ほども、言いましたが、人はできそうなことに手を伸ばしがちです。でもよく考えてみてください。自分が簡単にできることって、世間的に「すごいこと」だと思いますか?きっと、他の人でも簡単にできますよね。だから、今できることをやらない。できないことに挑戦することを、とにかく、それを大切にしています。今後も、今自分たちができないことにチャレンジし続けて、いつか、「今自分たちができないこと」が「世界の誰もできないこと」と同じ意味になるようにしたいと思っています。

※本記事は愛媛大学インターンシップの一環として作成されました。