研究室訪問

 今回の研究室訪問は, 機能材料工学コースの井堀春生准教授にお話を伺いました。井堀先生は, 愛媛大学大学院工学研究科電気工学専攻を修了後、新居浜工業高等専門学校助手から愛媛大学工学部電気電子工学科助手を経て、現在、大学院理工学研究科准教授としてご活躍中です。先生のご専門や研究以外で興味をお持ちのことについて、お話を伺いました。

まずはじめに先生の研究について教えてください

 私は機能材料工学コースの電気電子材料学研究室に属しております。電気電子材料といっても種類はとても豊富ですが、大きく分けると3つに分けられ、電気を通さない「絶縁体」、電気を良く通す「導体」、そしてその中間の存在となる「半導体」です。本研究室では、「絶縁体」と、もともと絶縁体であった高分子が電気を通す機能を持った「導電性高分子」を主な研究対象としています。私は、おもに「絶縁体」の研究を担当しています。

もう少し具体的に教えてください。


光学的電界ベクトル分布測定システム

 絶縁材料の役目は電気を流さないことですから、絶縁が破壊される状態になると困るわけです。各種絶縁体において、絶縁体中でどのように電気が伝わり絶縁が破壊されるに至るのかが研究対象となっています。破壊のメカニズムが解れば、壊れにくい材料の開発が容易になるからです。この種の研究は古くからおこなわれていますが、実は未だに結論に達していません。特に液体絶縁体は、液体中の現象が極めて複雑で、また影響する因子が多岐にわたっていることなどの理由から、気体や固体中などと比較して研究が遅れているのが現状です。その理由の1つが、液体中の電気的特性を精度よく測定する装置がないことにあります。例えば、みなさんが電圧を測りたいと思ったら、テスターなどの電圧計を使って、測定棒をあてて数値を読み取ろうとしますよね。ところが、液体は、測定棒を挿入することによって「場」が乱されてしまい、正確な測定ができなくなるのです。しかも、絶縁破壊自体は非常に高速(ナノ秒オーダ)な現象ですので、その瞬間の値を測定するのは非常に困難です。私たちの研究室でも、液体絶縁体の電気的特性について種々の実験からいろいろな推論をおこなっていましたが、確証を与えることはできませんでした。そこで、測るものがないのなら「作ってしまえ」という発想から、液体中の電界を測定する装置の開発にとりかかったのが私の研究生活の始まりです。

装置の開発ですか?機能材料工学科で?

 ないものは作るしかないですよね。材料の研究というか、研究そのものがいろんな装置の助けを借りています。必要(ニーズ)に応じてものを作るというは、技術屋さんの原点であると思います。
 詳しいことは省略しますが、電気光学効果という原理を用いて、液体中に光(レーザを使います)を入射し、その光を観察することで、液体に直接触れることなく電界を測定することが可能です。この原理は電界の強さのみに関係したものですが、私たちの研究室では、電界の強さだけでなく方向も考慮した電界ベクトルの測定を検討し、医療機器でよく知られているCT(コンピュータ断像撮影法)の考え方を導入することで、液体中の電界ベクトル分布を得ることに成功しました。現在は、ミリ秒オーダで電界を連続的に測定できるまでになっています。絶縁破壊前後の電場の測定にはまだまだ「遅い」ですが、高電界にさらされた液体絶縁体の電気伝導を調べることは可能となったので、ようやく、「計測屋さん」から「材料屋さん」らしいことが少しできるかなと思っています。

他にも面白い研究をされているようですね


レーザを用いた印刷紙からのトナー除去

 あー、これですね。これも「材料」っぽくないってよく言われるので(笑)、ちょうど一区切りつけたところですが・・・もっと世の中的にわかりやすい研究を1つやってみようかなと思って、本当に「思いつき」で始めた研究です。やはりレーザを使うのですが、レーザの力を利用して、印刷した紙から印刷部分(トナー)だけを除去して、紙を再利用できる装置の開発を念頭におこなった研究です。装置化するにはまだ解決しなければならない問題が残されてはいますが、JSTや科研費の援助もあって、うまく条件を選んでやることで再利用可能な状態に戻すことは可能となり、これに関しては特許にもなっています。
 他にも、液体や固体の絶縁材料の劣化診断(いつまで使うことができるか)に関する研究も行っています。絶縁材料は使えなくなってから交換したのでは手遅れですので、基本的には定期交換をおこないます。交換した後に試験・検査して、「あー、もっと使えたかな」とか「あら、やばかったな」ということがあります。絶縁材料の寿命予測を的確に診断できる方法があれば、効率的に交換することでエコにもつながります。この劣化診断をやはり「光」を使っておこなう「分光分析」を利用して、簡易的な装置の開発につながらないかを検討しています。

全ての研究に「光」が関係してますね

 「光」にはもともと興味もありましたし、光学測定を中心にやってきたこともあって、光学が第2の専門みたいなところがありますね。なので、何かを始めるときは「光」が使えないかと、まず第1に考えてしまいます。

機能材料の先生方にもたくさんお話を伺ってきましたが、材料ってホントにいろんなことをやってるんですね

 そうですね、世の中すべてのものが「材料」で出来ていますから(笑)。新しい材料の開発や、既存の材料の特性を調べることによってより良い材料にしていくことで、世の中が豊かに、便利なることをスタッフ一同、夢見ていますからね。いろんな分野の人がいますから、自分の専門外のことについても相談しやすいですよ。


ノルウェーにて液体絶縁体に関する国際会議に出席

研究以外になにかご興味はありますか?趣味は?


研究室対抗ソフトボール大会

 これといって決まった趣味はないです。その代わりといってはなんですが、大抵のことは好んでやりますよ。多芸は無芸といいますので、どれも誇れるほどのものではありませんが、スポーツは何でも、するのも見るのも好きですし、本を読んだり、映画を見たりするのも、旅行も計画を立てる段階から好きですね。あと、写真(撮られるのはイヤですが)、釣り、料理(作るのも食べるのも)、おしゃべり、カラオケも好きです。人が「趣味」と挙げるものには大体付き合えるのではないでしょうか?何もせずにぼーっとする時間もたまに欲しくなりますけど(笑)。

特にハマっているもの、あるいはハマったものはないのですか?


研究室の学生さんと海へ

 そうですね、高校生の頃は部活(サッカー)に明け暮れてて、部活が終わるとボーリングばかりしてました。大学生の頃はバイクツーリング、スキー、麻雀にハマってました。今はどれもほとんどやらなくなりましたけどね。
 最近ハマったものといえば・・・「子育て」ですかね。共働きだったこともあって、赤ちゃんの頃からかなり積極的に子供に関わってきました。こういう言い方をすると語弊がありますが、実に興味深い「研究対象」ですよね、子供って(笑)。ほとんど自分で動くことも出来ずただ泣くだけだったのが、ハイハイして歩けるようになって、言葉も覚えて...その過程を見るのは楽しかったです。あと、同学年の子と違うことでいちいち一喜一憂したりしてね、・・・みなさん勝手に大きくなったと思っているかもしれませんが、親には本当に感謝しないとダメですよ。
 子供に対しては常に「ちち、すごーい!」という存在でありたいと思っています。あ、ウチ、パパやお父さんではなく「ちち」と呼ばれています。というか、教えたらそう呼ぶようになりました、ホントは父上にしようと思ったんですけど(笑)。で、子供が興味を持ったものについては、調査・研究を怠りません。プリキュアが大好きだった頃は、子供よりもプリキュアに詳しくなろうとしましたし、公園で遊ぶようになると、いつも一緒のところではなく、いろんな公園に連れて行ったりして、近隣の大型遊具のある公園はほぼ制覇したと思います。自転車や水泳も「ちちが教えてくれた」と言ってくれます。すでに小学生ですので、本当は勉強に興味を持ってくれると調べなくていいから楽なんですけどね、今は、仮面ライダーとマリオですかね(笑)。

今後もお子さんの成長が楽しみですね

 そうですね、学生を見ていると時々思うのですが・・・とにかくいろんなものに興味を持ち、口に入れたり、触ってみたり、聞いたりするあの好奇心が、一体いつ頃からなくなって冷めた大人になっていくのか、非常に興味があります。あと、いつ「ちち」って呼ばなくなるかも(笑)。

今日はどうもありがとうございました、最後に高校生・大学生に向けてメッセージをお願いします

 多くの先生方とは違って、私が工学部を選んだのも、電気工学科を選んだのも、そしてこの職に就いたのも、人に大声で言える程、確固たるものがあったわけではありません。この道に進もうと決めて努力したわけではなく、毎日を精一杯頑張った結果、1つの選択肢として自分の前に現れ、その時の思いで選んできただけです。今でもこの道が正しかったかどうか考えることがありますが、それはどの道に進んでも同じだったと思います。
 今、やっている勉強に意味を見いだせない人もいるかと思いますが、そんなことは20年くらいしてから振り返って欲しいです。人は常に選択をしながら生きています。若いうちは目の前に多くの選択肢が並んでいるはずです。いや、その選択肢をできるだけ多くするための1つの手段として勉強をしていると思ってもらっていいかもしれません。選択肢が多いと悩むだけ、後悔する可能性が高くなるだけというかもしれませんが、それは贅沢な悩みです。選択肢の少ない、あるいは選択肢がない状況がどれほどのものかは、若いみなさんにはピンと来ないかもしれませんが、選択肢の少ない状況に幸せな場面は多くないです。多くの選択肢の中から、自分で選んだ道を信じて力強く進んで行って下さい。後悔なんかしてる暇はありません、またすぐに選択肢はやってきますよ。