研究室訪問

 こんにちは。工学部広報委員の門脇です。今回は機械工学コース機器材料学研究室の松下正史先生を訪ねます。

 松下先生は2004 年3月に岡山大学大学院自然科学研究科博士課程を修了(博士(理学))されました。その後、日立電線株式会社を経て2006 年4月から愛媛大学大学院理工学研究科機械工学コースに助手として着任しました。そして現在は講師として大学院と学部の学生に対する授業および研究指導を行っています。

松下先生、よろしくお願いします。まず、先生の研究分野・内容を簡単に教えてください。

 物質はたくさんの原子からできています。原子は電子と原子核からできています。電子の個性を生かす工夫をしてあげたり、原子の集まり方を変えたりすることによって物質の性質は大きく変わります。
 研究室では複数の種類の原子を混ぜ合わせたり、超高圧力、温度、強磁場など極限環境下での物質の性質の測定や合成を行うことによって新しい材料を開発しています。はるかに軽い材料や硬い材料、磁場や圧力、温度に特殊な反応を示す材料を開発し、これまで材料の限界に縛られてきた機械工学の可能性を拡げることを目指しています。

では、これまでにどのような材料を開発したのでしょうか? そして、現在はどのような材料を開発しているのでしょうか?また物理の理論も使って研究開発しているイメージを受けますが、そうゆうことでよいのでしょうか?

 熱膨張がとても小さな物質や融点が低く接合力の高い材料、サブミクロンの結晶粒を持つ材料の特徴を生かした生産プロセスを開発しました。また、圧力を加えることで発生する相転移と呼ばれる秩序の変化を複数発見し、物理の分野で世界各国の研究者に論文を引用していただきました。現在は、とても軽い金属であるマグネシウムを機械に利用する研究や金属の表面を硬くする研究、新しい相転移物質を探す研究を行っています。
 物理の知識は工学の多くの場面においてとなり、力学に立脚する機械工学は社会でも重宝され、卒業生の極めて高い就職率につながっています。
 機器材料研究は社会に必要とされる性質をもった材料を提供する工学研究です。工学研究では要求を満たすことを重視するあまり、学理を危うくさせてしまいます。一方で、物理の研究というのは、最先端の人類の自然への理解の探求ですが、必ずしも人類の生活に直結するものではありません。私の研究室では、人の生活に工学の感覚を持ちながらも、物理の研究にも参加することで、遅滞なく物理学上の成果を機械工学に反映させることを大切にしています。

先生の研究姿勢からは工学に物理学とその精神を融合させようとするものが感じ取れますね。ところで、先生が開発した材料は実際にはどのようなもの・機械に実用されるのでしょうか?実際に実用されたもの、もしくはこれから実用される予定のものがあれば教えてください?また相転移という用語が出てきましたが、これはどのような現象を表すものでしょうか?わかり易い具体例・事象例で説明をお願いします。

 これまで携わってきた研究は、構造物などの高強度化や軽量化、医療機器など高密度高集積化による小型化を可能とする期待をもつ研究として注目されています。しかし、基礎研究における発見の後には、応用研究に結び付けるまでの「死の谷」と呼ばれる険しい道のりが待っており、そのあと実用化されるには「ダーウィンの海」と呼ばれる厳しい道のりが待っています。指針を間違えることなく研究を実施するとともに、的確に研究資金を集め、投資できなければ、社会の役に立つ研究開発はできません。私自身、基礎研究から、産業利用までを意識した舵取りを勉強する毎日です。
 相転移についてですが、ある状態を相と呼びます。それが、なんからの原因で別の相に変化する現象を相転移といいます。皆さんの一番身近な現象でいえば、温度の変化に伴って、液体が固体にかわる現象でしょうか。私の研究ではおもに、結晶構造の相転移と電子の持っているスピンの秩序の相転移をターゲットとしています。

ありがとうございます。基礎研究から実用化までは道のりの長さと険しさが伝わってきますね。しかし、その分、実用化に至ったときの喜びは大きいでしょうね。ところで、先生が研究者を目指したきっかけや現在の研究テーマに興味を抱いたきっかけを教えてください。また、研究者として一番影響を受けた人物がいましたら教えてください。

 研究者を本格的に目指し始めたのは大学3回生のころからです。まず、生死、無名有名を問わず、物理学者という人達に興味を抱きました。主として数学を通して自然現象を理解する行為は、人間そのものの限界や可能性、姿と向き合っていることに通じます。それぞれの姿を見ていくにつれ、自分でやりたくなり、足を踏み入れました。
 研究を始めてからは、誰も見たことない高圧・強磁場・低温の複合環境下を研究室内につくり、極限状態だからこそ生まれる秩序の形成、崩壊現象を観察することに執着しました。未踏の場への挑戦と秩序の観察はいまでも私の大きな研究テーマです。その後、自分に向いた研究の形としてその応用展開との両立を考え始めました。
 影響を受けた人物はお会いした方々すべてです。上司や教員、先輩のみならず、同僚や後輩、学生さんとの関わりが自分を少しずつ人として変化させてくれており、研究者としても伸ばしてくれています。わからなかったこと、思いつかなかったことが、研究と関係無い場面で他人から提示されたものの考え方をきっかけに、ふと、こうするべきだった、こうだったとわかることがあります。一見関係ない経験でも、自分のなかでカチッとつながることがありますから、研究者じゃない人から受けた影響のほうが、反映されているかもしれません。

いろいろな質問に答えて頂きありがとうございます。最後に高校生や大学生などの若い人たちへのメッセ-ジをお願いします。

 変節の多い世の中でいつもより人数の多いリーダー達は、口数が多くなり、それぞれが自分の言葉を残そうとします。情報化のおかげで、それはむやみに拡散し、なにがなにやらわからなくなってしまいます。
 若い皆さんは、一つ一つ社会の動向にむやみに反応するのではなく、歴史を振り返り、クラッシックといわれようとも、より普遍的な価値観を見極めて生きてください。
 小学校の校訓みたいですが、強く、やさしく、たくましく生きてください。来るべき時期がきたら自分の過去に成した「価値あること」と、これから「やるべきこと」がスッとわかるのではないでしょうか。
 なにごとも、あきらめずに努力する姿勢を大切にしてください。
 幅広い見識を身につけるうえで、幅広い分野の読書をお勧めします。また、いろいろ考えながら長々と内外を一人で旅行をするのも学生のころしかできません。これは自分と向き合えていいものです。
 自分の中身が増えてこそ、初めて、コミュニケーションツール(英語など)は役に立ちます。英語がいくら話せても、中身がないと、伝令にすら使えません。勉強を含め、いろいろな経験を一つ一つ大切に積んでください。