研究室訪問

 今回は機能材料工学コースの阪本辰顕先生にお話を伺いました.
 阪本先生は大阪大学大学院工学研究科博士課程を修了後,平成17年4月に愛媛大学工学部機能材料工学科助手として着任され、現在講師として金属材料やセラミックス材料の高強度・高靭性化について研究されています.

まずはじめに先生の研究について教えてください

 金属やセラミックスの強度と靭性を向上させるための研究をしています.つまり外部から力が加わっても変形しにくく、破壊しにくい材料をつくるためにはどのようにすればよいのか、ということについて調べています。金属やセラミックスなどの物質は原子が集まって出来上がっていることはご存知かと思いますが、これらの物質の強度や靭性は、物質を構成している原子の種類と並び方にとても敏感ですので、物質中の原子の種類や並び方を観察することが必要です。そこで、いろいろな顕微鏡を使って組織観察を行いながら材料開発を行っています。たとえば光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡という装置を利用して目視できる大きさから、原子レベルの大きさまで組織観察を行っています。

それは具体的にどういう役に立つのでしょうか?

 材料の強度が上がれば、使う材料の量を減らすことができるというのが最も大きな利点でしょう。例えば自動車を作る場合、高強度の金属材料を使えば、必要な強度を出すために少ない量の金属で済みますので、自動車を軽くすることができます。自動車が軽くなれば、燃費がよくなることにつながります。最近は地球温暖化が問題になっていますので、二酸化炭素の排出量を減らすために自動車用材料の高強度化がさらに重要になってきています。このように材料を高強度化するときに厄介なのは、材料の強度をあげると破壊しやすくなってしまうということです。これは変形のメカニズム上、避けて通れないことなんです。しかし簡単にこわれてしまっては実用できませんから、破壊しにくくする必要があります。強度も上げて、破壊しにくくもする。ここが材料の高強度化する上で難しいところですね。

では先生はどんな材料について研究していますか?

 主にチタン合金やアルミニウム合金といった軽金属に分類される合金について、強度と靭性を向上させるための研究を行っています。チタンもアルミニウムも、軽くてさびにくいという特徴があり、組織制御によっては高い強度や靭性が得られます。このような利点がありますので、アルミニウムは身近なところにたくさん見られますし、チタン合金もメガネやゴルフクラブなどに使われているのをご覧になったことがあるのではないでしょうか。そのほかにも、自動車、鉄道、航空機などの大型構造物にも広く使われています。また、チタン合金は高温で高い強度を示しますので、エンジンの材料に使われたりもします。結構、身近なところにたくさん使われていますよ。これらはすべて、精密な組織制御を施されて強度と靭性をコントロールされています。組織の大きさがナノメートルという非常に小さなものなので、これを見るためには透過型電子顕微鏡が必要なんです。ナノメートルは10のマイナス9乗メートルですね。

透過型電子顕微鏡というのはどのような装置ですか。

 実際に見ていただいた方が分かりやすいと思います。これが、透過型電子顕微鏡です。仕組みは光学顕微鏡とよく似ていて、光学顕微鏡をちょうど逆さまにしたと考えてもらったらいいと思います。光学顕微鏡と違う点は、光学顕微鏡は光を使って観察しますが、透過型電子顕微鏡は電子線を使います。電子線が上から照射されます。また光学顕微鏡はガラスのレンズを使って拡大しますが、透過型電子顕微鏡はコイルでできた磁界レンズを使います。透過型電子顕微鏡では100万倍くらいの倍率まで拡大して見ることができますので、ナノメートルサイズの原子の並びが観察できます。

学生時代から今の研究をされているのですか.

 学生時代は今とは異なるテーマを扱っていました。学生時代には形状記憶合金を扱っていました。形状記憶合金は、力を加えて曲げてもライターなどで温めてやると元の形に戻る合金です。初めて実際に見たときにはびっくりしましたよ。これなら元に戻らないだろうというくらい曲げても、温めると戻るのですから。これが金属かと思いましたね。チタンとニッケルの合金が有名ですね。ひと昔前には携帯電話のやわらかいアンテナにも使われていましたので、目の前で実際にやってお見せすることができたのですが。私が学生時代に扱っていた合金はこれとは少し違う種類の合金で、外から磁界をかけてやると形が変わる形状記憶合金です。センサーなどにも使えるスマートマテリアルという種類の材料ですね。ニッケル-マンガン-ガリウム合金とか鉄-白金合金などがありますが、磁界の中に合金を置くと目に見えて形が変わるので不思議で面白いですよ。単純ですが、不思議だなと思うことが研究の大きな動機になりますね。

ところで趣味は何ですか?

 音楽を聴きながらドライブすることが好きです。どこまでもドライブできますね。あと、料理も好きですが、いつももう一つ何かの味付けが足りず、それが何なのかわからないのが悩ましいです。しかし、そのときは大抵、酢を入れると解決することが多いです。酢を入れることを思いついたのは、昔よく母から聞いた料理の「さしすせそ」の中に入っているからですが、そういう意味で「さしすせそ」を考えた人は素晴らしい。料理を作るときの法則みたいなものですね。

昔から研究者になりたかったのですか?

 昔から科学的な不思議な現象には興味がありました。セミの羽化を観察したり、理科の実験をしたりするも好きでした。機械いじりはあまりやってなかったですが、学生時代には身の回りの機械を分解して中身を調べて楽しんでたりもしました。学部の4年生になる前には、漠然と研究に関する職業に就きたいと思うようになっていました。学生のころから教えることは好きでしたよ。

最後に学生のみなさんにメッセージをお願いします.

 学生のみなさんには、困難なことにも逃げずにチャレンジしてほしいと思います。悩ましいこともあるかもしれませんが、悩むということは今自分が前進して成長しようとしている証拠ですから、周りの人にも助けてもらいながらでも構いませんので、逃げずに乗り越えていってほしいと思います。

有り難うございました.今日はいろいろとお話を聞かせていただきました.今後の先生のご活躍に期待したいと思います.