研究室訪問

 こんにちは。工学部広報委員の門脇です。今回は機械工学コース熱工学研究室の中原真也先生を訪ねます。
 中原先生は1990年3月に上智大学大学院理工学研究科機械工学専攻の博士前期課程を修了後、いったん防衛庁技術研究本部第3研究所(ロケット推進センター (当時))に 研究職技官として勤務され、その後の1998年3月に九州大学大学院工学研究科機械工学専攻の博士後期課程を修了(博士(工学))しました。そして九州大学工学部助手を経て、2008年4月から愛媛大学機械工学コースに准教授として着任しました。

中原先生よろしくお願いします。まず、中原先生の研究分野を教えてください。

 主に水素の燃焼に関する研究を行っています。また、天然ガス等の炭化水素燃焼エネルギーの利用に関する研究も行っています。

エネルギーに関する研究を行っているのでしょうか?もう少し詳しく教えてください。

 そうです。21世紀のエネルギーおよび環境問題を考える時、水素の利用が問題解決のための有望な技術の一つであることは言うまでもありません。そこで、私は、水素エネルギーの有効利用燃焼技術および水素社会に潜在化する災害防止技術の開発のために必要不可欠な、水素燃焼の現象の解明および技術の開発を目的とした研究を行っています。そして、炭化水素の燃焼エネルギーに関する研究については、天然ガス等の代替燃料をはじめとする、限られた炭化水素エネルギーを最大限有効かつ安全に利用する観点から研究を行っています。


熱工学実験室にて

研究のキーワードは、「エネルギーの有効かつ安全な利用」のように思えますが、では、そのためにどのような技術が必要でしょうか?

 燃焼エネルギーの有効利用に関しては、例えばエンジンにおいて、燃焼を促進し、効率よく仕事を取り出せ、かつ環境にも優しい燃焼方式を開発することです。そのためには、汎用性のある乱流燃焼速度モデルを開発する必要があります。と言うのは、一般的にエンジン等の燃焼機器では層流場ではなくガス流動が存在する乱流場での燃焼が利用され、その設計には、その乱流場で燃料をどれだけ燃やせるかを表す乱流燃焼速度を把握しておく必要があるからです。
 ここで、環境という観点からは、空気と燃やしても水のみ生成し二酸化炭素を生成しない、水素が燃料としては最適です。実は、水素は空気と燃焼させると、NOx(窒素酸化物)の排出の問題が残ります。しかし、この問題は、燃料が酸素と完全燃焼するより少ない量の状態で希薄燃焼させるとか、純酸素と燃焼させることにより解決できます。ただし、希薄燃焼では燃焼の不安定性などが、酸素との燃焼では燃焼温度を抑制する観点から適当な希釈ガスが必要になるなどの問題が生じる場合があります。このように一言で汎用性のあるモデルの開発といっても、エネルギ-や環境問題を考えると、多様な混合気や燃焼条件に対応することが求められ、一筋縄では行きません。

難しい話ですが、どのように燃焼させるか、しかも環境にも優しくが研究のポイントで、そこに腕の見せどころがありそうですね。では、実際にはどのような研究を行っているのでしょうか?

 そこで、私の研究では、乱流燃焼速度を整理するのに、燃料をはじめ混合気を構成している分子の拡散速度特性に着目しています。この分子拡散の影響が乱流燃焼場に現れた一例として、下図に、水素-酸素-希釈ガスを混ぜた混合気で、希釈ガスとして酸素と拡散速度がほぼ等しい窒素と拡散速度が速いヘリウムを用いた場合の乱流火炎の断層写真を示します。この写真で、中心の暗い部分が燃焼した部分でその周りの明るい部分が未燃の部分を表しています。写真から、拡散速度が速いヘリウムを希釈ガスとした場合、火炎面の凹凸がなくなりのっぺりとしている様子がわかると思います。この様な形状の差異は、火炎面の燃焼速度や乱流燃焼速度にも影響を与えます。これは、希釈ガスの拡散特性の差異による影響です。
 私の所では、この点に着目し汎用の乱流燃焼モデルが構築できないか研究を進めています。具体的には、様々な水素-炭化水素-酸素-希釈ガス混合気の層流や乱流場で燃焼させ、燃焼速度の計測、レーザトモグラフ法による火炎断層写真撮影やシュリーレン法により火炎を可視化し各種解析を行っています。
 一方、安全利用技術に関してですが、今度は、燃焼を、促進させるのではなく、抑制する技術の開発になります。水素は、私たちがこれまで使用してきた化石燃料に比べて、少ないエネルギーで着火するなど、危険な燃料であるとよく言われます。そこで、水素社会を実現するには、水素の安全利用技術の確立というものが重要なテーマです。私は、主に、水素燃焼が火災より危険な爆ごうという現象へ遷移することを防止する技術を開発するための基礎的な研究を行っています。ここで、爆ごうですが、火炎が超音速で伝ぱする様な現象で、圧力も普通の燃焼より大きくなり、建物の中などで発生すると大きな被害をもたらすことになります。私の研究では具体的には、爆ごうへの遷移が火炎伝ぱ速度の増大が重要な因子であることに着目して、爆ごうは起こさずに、混合気の燃料濃度と層流燃焼速度が火炎伝ぱ加速機構にどのように影響を与えるのかを検討しています。ここでは、トンネル状空間やロッカー等の調度類の隙間を模擬した狭あい空間を対象に研究を行っています。また、先ほどお話ししました、乱流燃焼速度モデルを開発することによっても、水素漏洩にともなう火災の予測や予防技術にも役立つと考えています。

(a)窒素 (b)ヘリウム
火炎断層写真撮影装置 乱流火炎断層写真の例
(水素-酸素-希釈ガス混合気,層流燃焼速度25cm/s)

ありがとうございます。ところで、話は少し変わりますが、先生が燃焼の研究に関心を持った経緯というかきっかけみたいなものを教えてください。

 私が、燃焼の研究に興味をもったきっかけですが。。子供の頃、焚き火などをぼーっと眺めているの好きだったかな。。大学の3年の夏に、インターンシップで、調布市の深大寺近くにある航空宇宙技術研究所(現在:宇宙航空研究開発機構 JAXA)に行きました。そこでの研修内容は、回流水槽を用いた三角翼の後方の渦の観測でした。その研修期間中に、所内の研究室をいくつか見学させて頂く機会がありました。その見学させて頂いた研究室の一つに航空機用ガスタービンエンジンの燃焼器に関する研究を行っている所がありました。そこの室長さんが、「燃焼にはわからないことがまだまだ多い」とおっしゃられていたのがとても印象に残りました。このとき、漠然と燃焼に関わる仕事がしてみたいと思ったことを覚えています。それで、大学では燃焼の研究に関われる熱工学研究室を選びました。

大学院の修士課程修了後に官庁勤めを経ていますが、愛媛大学に着任まではどのような研究をしていたのですか?

 就職に際してですが、燃焼に関わる仕事がしたく、民間企業も考えていました。が、大学院(修士課程)の同じ研究室の仲間で国家公務員試験(国家Ⅰ種)を受ける者がいたのもあり、私も受験を思い立ち、運良く合格できました。そこで、国立の研究所等で燃焼の仕事(研究)ができる所を探しました。最終的には、学会の講演論文集等でロケット推進薬等の研究ができることを知って、防衛庁(当時)の研究所に採用して頂きました。この研究所では、固体ロケット用の推進剤や金属などの固体の燃焼等について研究をしていました。その後、国内留学で九州大学の大学院(博士課程)へ入学し、水素や炭化水素の気体燃料を用いた燃焼の研究をはじめました。ふりかえってみれば、液体の燃焼の関する研究は行っていませんが、幸いにも色々な燃焼の研究に携わってこれました。


スペースシャトル固体燃料補助ロケット・カットモデルの前で

いろいろな質問に答えて頂きありがとうございます。最後に高校生や大学生などの若い人たちへのメッセ-ジをお願いします。

 エネルギーや地球環境問題を、さらに資源を輸入に頼っている日本の立場を考えると、再生可能なエネルギーを利用した動力システムの開発は、機械工学にたずさわる者の使命だと思っています。将来を担う高校生や大学生の若い人たちには、是非、真剣に取り組んで欲しいテーマです。
 また、学生は少なくとも勉学に勤しむことは言うまでもありませんが。是非、学生の内にしかできない、勉学以外にも、損得を考えずに、何かに打込むことを経験して欲しいと思います。。部活動やボランティアに参加するのは良いと思います。
 若い人には、一見、無駄かなと思うことにも、取り組んで欲しいですね。無駄かどうか、ものの善し悪しなどを判断できる能力は、いろいろな経験の積み重ねで、自然とその人に培われるものだと思います。
 私も、まだまだ修行中の身で、偉そうなことは言えませんが。。。若い人たちと、一緒にこれからも色々と学んで行きたいと思っています。


Heidelbergの国際会議にて