研究室訪問

 こんにちは。工学部広報委員の門脇です。今回は愛媛大学大学院機械工学コース・ロボット工学研究室の李在勲先生を訪ねます。
李先生は2003年8月に韓国のHanyang大学大学院(電気電子制御計測工学専攻ー工学博士)を修了しました。修了後、Hanyang大学のネットワークロボットセンターと知能手術システムセンターを経て、2004年4月からは筑波大学大学院システム情報工学研究科で、そして2007年4月からは産業技術総合研究所知能システム部門空間機能研究グループで、ロボットの研究を行ってきました。愛媛大学機械工学コースに着任したのは2009年4月からです。

李先生よろしくお願いします。まず、はじめに先生の研究分野を教えてください。

 私の研究分野はロボットです。実はロボット研究は分野が広く電気電子や情報工学専攻からも研究されていますが、私の研究の出発点はロボットの骨格となるメカニズムに基づいてロボットを理解することです。

屋外走行用移動車ロボット 移動車ロボット

では実際にはどのような内容やテーマで研究を行っているのですか?

 ロボットの構造と運動特性を理解してから、メカニズムを開発し、計算機とセンサを活用してロボットシステムを運用する方法を考案する事が主な研究の内容になります。具体的な研究テーマとしては「人体メカニズムのロボットへの応用」と「移動車ロボット」を中心に研究しています。

2つの研究テーマが出てきましたが、それぞれについてもう少し詳しく教えてください。

 まず、「人体メカニズムのロボットへの応用」についてはロボットの視点から人間を理解し、実際にロボットで人体メカニズムを実現させる研究を行っています。人間はロボットにおいて最高のモデルであるし、私も人間の腕や足の構造と制御方法に興味を持っています。人体はモータで動く一般のロボットとは異なるので、高速の計算機を使わなくても、独特な構造と多数の筋肉を活用してどんなロボットより自然かつ素晴らしい運動が出来ます。このような人体の構造、制御方法、運動特性を解析し、様々な長所をロボットの設計や制御に活用する研究を行っています。
「移動車ロボット」については移動車ロボットの開発とナビゲーションを研究しています。近い未来にロボットが人間の生活環境の中で共存しサポートする事が期待されています。このようなロボットのサービスを実現するために必要なロボットの機能は人間の生活環境を認識し、安全かつ効率よく移動する能力です。 私はロボットの知的な移動機能の実現のために移動メカニズムの開発、周囲環境認識、衝突回避ナビゲーションなどの研究を行っています。

お話を聞きますと「人間とロボット」がテーマのキーワードのような気がしますが、先生がこれらを研究テーマして選んだきっかけは何ですが?

 私が研究を始めた時、漠然とですがロボットの骨格となる機械メカニズムに興味がありました。しかし、実際のロボット開発の経験から考え方が変わるきっかけがありました。もう10年以上前の話ですが、大学院修士課程の研究の一環でロボットハンドを開発するプロジェクトに参加した事があります。そのとき、たった3本指のロボットハンドのために人の背より高い巨大なキャビネットの大きさの制御器や電源装置が必要であることを初めて見て、私には衝撃でした。さらに、そのロボットハンドは物をつかむことがとても困難でした。また、その他にも様々な制限がありました。自分のような人間が常に簡単に出来る動作も、ロボットには不可能な事が山ほど存在して、その上、巨大な装置が必要となる事実を知ってから、ロボットのモデルとしての人間を改めて見るようになりました。その時からロボット工学の視点から人間を理解して、それをロボットの開発に応用し、さらにロボットが人間を助ける事が可能になるようにという考えで研究を続けています。

ロボット分野の国際学会で

なるほど、素朴な疑問から現在の研究テーマにたどり着いたのですね。私の専門は数学ですが、数学でも良いテーマに出会うきっかけは、同じく素朴な疑問からのことが多いです。分野は違いますが研究の出発点は同じであるとあらためて思いました。ところで、話は少し変わりますが、先生が日本に来た理由というか経緯を教えください。

 そうですね、若い頃から海外で働く夢というか、将来は別の国に行ってみたいという希望を持っていました。その希望が大学院博士課程の研究する間で、卒業後には一度海外のロボットの研究が活発な国に行って経験したいという思いになりました。そこで、日本とアメリカを念頭に置いていましたが、ある機会に私の指導担当の先生から移動車ロボット分野で優秀な日本の研究グループを推薦されました。その紹介で日本に来た後、筑波大学のロボット研究室と産業技術総合研究所の空間知能研究グループで研究活動を含めて様々な経験が出来ました。ロボットの研究について様々な事を経験し視野が広くなり、日本での新しい言語、新しい環境、新しい文化などに適応し慣れて行く事がとても楽しい時間でした。ある意味で大変な事もありますが、自分には研究や様々な事に対して別の視点から改めて見て視野が広くなり非常に面白かったです。異なる点と似ている部分、多様な考え方などを違う言語を通して感じる事が私には面白く、ロボットの研究の雰囲気も良かったので今も楽しく生活しています。慣れ過ぎかも知れないですかね?^^

産業技術総合研究所の
Humanoid Robotの前で
産業技術総合研究所の空間機能研究
グループでのサービスロボットで

そんな韓国と日本の両方の大学で研究した先生にお聞きしたのですが、日本と韓国の大学・大学生の比較というか違いみたいものを教えてください。


韓国の 'Changdeokgung' の中で

 比較というと難しくて客観的な比較が出来ないので個人的な感想になりますけれども。。。日本の教育の長所だと思いますが、学生の意見を重視するので特に学部の卒業論文や大学院の修士論文に対して、学生はある程度自分の意志でテーマを選び、自分がやりたい研究を行う感じがあります。それで、最初は研究の進みが少し遅いかも知れないけど、基礎を充実してテーマの意味を十分に味わうように理解する。そんな教育環境が日本の大学にあると考えています。学部4回生に研究室に配属されて卒業研究を行うのは学生にとって凄く良い機会だと思います。 韓国では一般的に修士課程になってから研究室に配属されるので、研究室での研究活動は大学院からです。
そして、日本と韓国の大学生の違いですが、私が感じた日本の大学生の特徴は積極的に自分の意見を発言する事が少なく消極的なところですね。比べて韓国の学生は。。。自分も含まれているのでさらに言いにくいですが(^^)、韓国の社会には昔よりも少しスピーディに変化しようとする傾向があるので、同様に学生たちもスピーディで、積極的なところがありますね。しかし、早く何かの結果を出したいという事で基礎が弱くなりやすいところもあるかと思います。文化としては日本も韓国も同じ東洋文化であり、ほとんどが同様です。時々違いを感じることはありますが、具体的に言おうとするとなかなか難しいですね。

少し違うかもしれせんが、私が韓国のスピードと積極性を最も強く感じたのはWBCと北京五輪で韓国チームの野球を見たときです。このとき、そのスピードと積極性がこのチームの強さの源であると感じました。どちらが良い悪いとかいう問題ではなく、日本と韓国のそれぞれの国民性や国が抱える状況を踏まえた上で、お互いの違いや考え方を認識することは大切なことではないかと考えています。話が脱線しましたが、最後に高校生や大学生などの若者へのメッセージをお願いします。

 若い時にたくさんの経験をして欲しいです。その中では旅行が一番良いのではないかと思います。国内でも海外でも様々な所で色んな文化や風景を感じ、人々と会って広く多様な世界を自分の目、耳、手で、見て、聞いて、触って感じる事が非常に大事な財産になるのではないかと思います。また、大学では様々な国からの留学生もいるし、私のように海外からの先生もいるので、旅行しなくてもある程度は間接的な経験が出来るのでこの環境を良く生かしてもいいと思います。世界の広さを感じる程、未来の広い世界に対してもっと広く活躍できるでしょう。