研究室訪問

まず、最初に自己紹介をお願いします。

 こんにちは!電子情報工学専攻電気電子工学コース電子物性デバイス工学半導体研究室の寺迫智昭です。私の性格は自分で言うのも変ですが、「温厚」です。だからといって「甘い」というわけではありませんが・・・・。それと「好奇心の塊」でしょうか。ちょっと大げさに聞こえるかもしれませんが、この世に生まれてきたからには自分の専門にとらわれることなく色々なことを知りたいと日々思っています。


長男と私(砥部動物園にて)

続きまして、先生のご経歴をお願いします。

 私が中学生の頃パソコンが一般の家庭にも普及し始めました。私も両親に無理を言ってパソコンを買ってもらい、パソコン雑誌に掲載されているプログラムを打ち込んだり、自分でBASIC言語を使って簡単なゲームプログラムを作ったりしていました。このことがきっかけとなってコンピュータやLSIに関係する仕事に就きたいという自分なりの進路が見えてきました。中学校の担任の先生には地元の高校の普通科に進学し、そこからさらに大学に進学することを勧められましたが、なるべく早く技術者として働きたいという希望もあって香川県にある詫間電波工業高等専門学校へ進学しました。
高等専門学校時代は寮生活をしていたので上級生とのつながりが非常に密でした。一つ年上の先輩からは、「量子力学」という学問の面白さを教えていただきました。高等専門学校への入学のきっかけはコンピュータに関する仕事に就くためでしたが、いつしか興味の対象が「量子力学」とのつながりの深い「半導体物性」へと移っていました(現在、講義で「量子力学」を担当しておりますが、私が初めて「量子力学」と出会ったときのワクワク感をどのようにしたら伝えることが出来るのだろうか日々自問自答しています)。高等専門学校の卒業研究では、「光音響分光法」に関するテーマを選びました。「光音響分光法」というのは、電話の発明で有名なアレキサンダー・グラハム・ベルが発見した「光音響効果」を利用した物性評価法です。「光音響分光法」では、密閉容器内に置かれた試料に断続光を照射し、試料内での光-熱エネルギー変換を介して発生する音波をマイクロホンで検出することで非輻射再結合過程に関する情報を得ることができます。
「量子力学」や「半導体物性」などについてもっと研鑽を積みたいという気持ちが自分の中で膨らみ、高等専門学校卒業生の受け入れ校ともいえる長岡技術科学大学に編入学することとしました。長岡技術科学大学大学院の博士前期及び後期課程では、I-III-VI2族カルコパイライト型半導体Cu(AlGa)S2の気相エピタキシャル成長と光物性評価の研究に取り組みました。このCu(AlGa)S2はAlとGaの組成を変えると緑色から紫外線領域の光を放出することができ、p型の電気伝導性を持つ材料です。現在、高輝度青色発光ダイオード(LED)にはIII-V窒化物半導体InGaNが用いられていますが、当時はこれ以外にもII-VI族半導体のZnSeやZnS、シリコンカーバイド(SiC)、ダイヤモンド、また私が研究していたCu(AlGa)S2も青色LED用材料の候補でした。博士課程在学中にCu(AlGa)S2を使った青色LEDは実現できませんでしたが、この材料の研究を通じて半導体物性研究の奥深さを知ることが出来ました。特にフォトルミネッセンスやラマン散乱などの光を光物性評価はシンプルですが、非常に多くの情報を得ることが可能であることを知りました。
博士後期課修了をひかえ、就職先を決めなければならなくなったとき、これまで同じ半導体結晶成長や光物性の研究を継続できるような環境で働きたいという気持ちが強くなっていました。そんな矢先、カルコパイライト型半導体材料の研究で実績のあった愛媛大学工学部電気電子工学科の磯村・白方研究室で助手を公募していることを知りました。幸運にも採用していただくことになり、現在にいたるわけです。

現在の研究内容についてご紹介ください。

 私の現在の研究テーマは、「酸化物半導体の薄膜およびナノ構造の作製」です。酸化物半導体の中でも酸化亜鉛(ZnO)の持つ魅力にとりつかれています。この材料は昔から研究されており古い材料のようですが、圧電性、透明導電性、蛍光特性等の多様な機能を有しながら、環境や人間にとっても優しい材料です。事実、ZnOの微粒子は化粧品にも使われています。現在透明導電膜材料の主流はITO(インジウム添加酸化スズ)ですが、構成元素であるInは資源が乏しく、その代替の材料としてZnOに白羽の矢が立っています。またZnOはInGaNを凌駕する青色LEDとなる可能性を秘めています。私は、このZnOが元来持つ優れた機能性とナノ構造化に伴う量子サイズ効果との融合が新しい機能を有するデバイスの創製につながると考えており、ZnOベースのナノ構造の合成に取り組んでいます。ナノ構造は数ナノメートル(nm)から数100nmのスケールを持つ構造であり、その作製方法にはトップダウン方式とボトムアップ方式とがあります。前者は大きなかたまりから目的とする物体を削りだしていく方法、後者は全ての物質のビルディング・ブロックである原子や分子のレベルから目的とする物体を組み立てていく方法です。私は後者の方法でナノ構造を作製しています。具体的には、土台となる材料(通常「基板」と呼ばれます)の上にナノサイズの触媒金属微粒子を配置します。この基板を高温に加熱し、構成元素を含む原料ガスを供給すると触媒金属微粒子と構成元素とで合金液滴が形成されます。さらに原料ガスを供給し続けると、構成元素が合金液滴中で沈殿し、これを起点に結晶が成長し始めます(これを「気相-液相-固相成長」、略して「VLS成長」といいます)。これを繰り返すことでナノスケールの直径をもった半導体のナノワイヤーが形成されます。



大気圧CVD法で作製したZnOナノ構造
((a)ナノロッド、(b)ナノペンシル、(c)ナノウォール)
スケールバーは10μm

 半導体薄膜の作製は高真空下やプラズマを利用して行われることが多いのですが、私は、長岡技術科学大学での修士や博士課程の学生時代から半導体結晶の作製には最もシンプルな大気圧下での化学気相堆積(Chemical Vapor Deposition: CVD)法を用いています。現在のナノ構造の作製もこの大気圧CVD法を用いています。また学生の時代から成長装置は自作のものしか使用しておらず、自作の成長装置を使うということが私の中でのポリシーになっています。自作の装置を用いることのメリットは、何らかのトラブルが生じた場合など即座に対応できること、自分自身で装置の改良ができること、安価であるということにあります。必ずしも研究費の潤沢な環境でない地方の大学にいる我々は、装置や設備ではなく、むしろアイデアで勝負するという姿勢が重要だと考えています。私自身必ず他の研究者とは違った視点で問題に取り組むように心がけています。そして、この自分の原点とも言える大気圧CVD法がどれくらいのポテンシャルを持っているのかを明らかにしたいと思っています。

続きまして、先生のご趣味のお話をお願いします。



    マウリッツハウス美術館(オランダ・ハーグ)

 私は幼稚園から中学卒業まで岡山県吉備郡真備町(現在は、市町村合併のため岡山県倉敷市真備町)で過ごしました。この町の名前は、奈良時代にこの地で誕生したとされる吉備真備(きびのまきび)にちなんで名付けられました。また自宅近くの山の中にあった古墳を遊び場にしたり、小学校のグランドの片隅で須恵器の破片を見つけたりなどの経験をしました。また私が通っていた小学校は岡田藩という一万石の大名の屋敷跡にありました。このような背景もあって名所や旧跡を訪ね、その周辺を散策することが好きです。現在居室の窓から松山城の天守閣が見えることが非常にうれしいです(ちなみに小学校の頃は、お城のプラモデルを作るのが好きで松山城もつくりました)。
 読書も好きで、ジャンルを問わずいろいろと読みます。これまで暮らしてきたところが有名な作家のゆかりの地であったり、有名な作品の舞台でした。真備町は、「犬神家の一族」、「八つ墓村」などの推理小説の作品で知られる横溝正史の疎開先でもあります。金田一耕助が初めて登場する「本陣殺人事件」では自宅周辺の地名が沢山出てきます。また司馬遼太郎作品との縁も深く、私が大学時代を過ごした長岡は「峠」(戊辰戦争の際、長岡藩の家老であった河井継之助が主人公)、そしてここ松山は皆さんご存知のように「坂の上の雲」の舞台となっています。私は、司馬遼太郎の作品の中ではとくに「花神」が好きです(2007年9月にオランダのハーグで開催された国際会議に出席しましたが、空いた時間を利用してライデンを訪れることが出来ました。ライデンは超伝導現象が発見された地でもありますが、「花神」にも名前の出てくるフィリップ・フランツ・フォン・シーボルトが日本で収集した資料を展示しているシーボルトハウスがあり、異国の地で江戸時代末期の日本について学ぶという貴重な経験をしました)。最近では読書の時間もなかなかとれないので、学会等で出張した際に必ず宿泊先の近くで書店を探し、そこで何冊か本を購入し、読書するというのが習慣になっています。
 美術鑑賞も好きで、ルネ・マグリットが好きな画家の一人です。中学校の美術の教科書に載っていた「大家族」という作品を知って以来、マグリットの描くなんだか不思議な世界観が好きです。長岡にいたころ東京の三越美術館で開催されたルネ・マグリット展に足を運び、実物と対面することができたのは貴重な思い出です。またハーグでは、マウリッツハイス美術館で最近人気のヨハネス・フェルメールの「真珠の耳飾りの少女(青いターバンの少女)」や「デルフトの眺望」の実物を見ることができ、フェルメールも好きな画家の一人になりました。
 趣味ではないのですが、今最も楽しいと思えるのは小学校2年生の長女と2歳の長男と遊んでいるときです。長男は現在、爆発的に色々なことをマスターし、日々進化しているのが分かります(こ○まよ○おの物真似を披露してくれたり、「欧米か」といいながらぼけてもいないのにいきなり突っ込みをいれてきたりします)。30代の後半にもなり覚えることより忘れることの方が多い私にとってはうらやましいかぎりです。また、自宅に帰ると二人の子供が「おかえりー」と駆けつけてくれるのを見るとその日の疲れも吹っ飛びます。

最後に学生さんへのメッセージをお願いします

 ナノテクノロジーといわれる研究分野は、融合領域であり幅広い領域の知識が必要とされます。学生の皆さんには自分の研究分野に固執するだけでなく、広く様々な分野に興味を持ってもらいたいと思います。私もよく経験するのですが、自分の研究や仕事が行き詰ったときそのヒントが全く違ったところにあることが多々あります。そして大学あるいは大学院に在籍している間に自分なりの知識を習得する方法、つまり「自修能力」を身につけてもらいたいです。また日々の人の出会いを大切にして充実した学生生活を過ごしてもらいたいと思います。



ZnOの研究を本格的にはじめたころ研究室にて撮影
(左から私、杉本君、白方祥教授、濱本君、佐伯君、近藤君)