研究室訪問
では,氏家先生にインタビューをしたいと思います.先生は研究でコンクリートを扱っていらっしゃるわけですが,まず基本的なことを教えて下さい.コンクリートは何と何を混ぜ合わせてつくっているのですか?
水とセメントと砂利です.
セメントとはどんなものですか?
石灰石を砕いて1400~1500℃で加熱して粉末にしたものです.これらを混ぜ合わせるとコンクリートになります.感覚的には,陶器をつくるときに粘土に水を加えて練って焼きますが,コンクリートでは先に焼いて粉末にしてから水を加えて固める感じです.
コンクリートはいろいろなところで使われていますが,いつ頃から人間はコンクリートを使っているのですか?
古くは紀元前のローマ時代からありますが,現在使われているコンクリートは1800年代に発明されたものです.原理は同じなんですが,古いセメントは水に溶ける性質があるので,石膏のような感じです.
石灰岩を焼いて砕くということを,よく見つけましたよね.
イギリスで発明されたものです.
では,コンクリートについてわかったところで先生の研究室と研究テーマについてご紹介下さい.
研究室の名前は建設材料開発学です.コンクリートを使って「もの」をつくるときに,安全につくることを目指す「構造的」な研究と,いい構造物をつくるにはどんなコンクリートを使ったらいいかという「材料的」な研究を行っています.
構造的な研究というのは安全に関わっていて,材料的な研究というのは新材料の開発みたいなことに関わっているということでしょうか?
材料的な研究については,最近だとリサイクルなどを通して資源の有効利用を考える必要があります.このような目的にそって,今まで使われていないような材料を使って構造物をつくる,というような研究です.
氏家先生は構造的な研究と材料的な研究との両方を行っているということですね.
はい.そうです.
では,先生の研究テーマや卒業研究のテーマということになると,具体的にどのような感じになるのですか?
構造的な研究に関しては,ひび割れについて研究しています.コンクリートの構造物は基本的にひび割れが起こることを想定して設計するのですが,ひび割れは欠陥なので,そこから劣化してきます.そこでひび割れが入らないコンクリートというのが開発されています.これは非常に高価ですが,このコンクリートを利用して,ひび割れが発生しない部材をつくる研究を行っています.
実際にコンクリートはいろいろな場所で見かけますし,ひび割れが入っているのもよく見かけますね.
ひび割れが入らないコンクリートというのは,細密充填して強度を高める工夫がされています.また,水をなるべく使わないことによっても強度が高くなります.ただしこのようなコンクリートは非常に高価なので,普通に使ってしまうと莫大な費用がかかってしまいます.私は既に開発されているひび割れが起こらないコンクリートを,実際に応用する技術の研究をしています.
そのコンクリートを具体的にはどのような場所に使うことを考えているのですか?
様々な場所に使うことを考えているのですが,例えば橋などがあります.実は橋の下側はひび割れが入っても構造的には問題ないんですよ.
あ,そうなんですか?
はい.ひび割れが入ることを許した設計をしているんですよ.というよりは,入らないと損なんです.ひび割れが入らないような設計をすると,高価になって,非常にもったいない設計になってしまいます.ただし,長期的に考えた場合,ひび割れが入ってしまうと,時間が経つにつれて劣化が起こってしまいます.そこで,やっぱり劣化しない部材を使おうということになり,先ほどのひび割れが起こらないコンクリートのようなものの利用に関する構造的な研究をすることが必要になるわけです.
なるほど.それで実際にはどのような手法で研究を行っているのですか? やっぱり実験が多いのでしょうか?
コンクリートは,計算したり考えたりしてもわからない部分があるんですよ.これとこれを混ぜ合わせたらどうなるのかということはどうしても机の上ではわからないんです.
経験則みたいな部分があるということですか?
はい,そうです.どんなに考えてもわからないことでも実験すればすぐにわかる.したがって,基本的には実験で現象を説明していきます.そのうちに何か法則のようなものが見つかってくるので,それを理論的に定式化して,最終的にはさらに簡単にして設計に使われる式を提案するというのが目標です.
本当に役にたつ研究という感じがしますね.ところで先生はなぜ今のようなものづくりに関する研究を行うようになったのですか?
僕は基本的に技術者というのが好きだったんです.それと,実家が農家だったんですが,どうしても僕は農家を継ぐのがいやでした(笑) そのためには四国を出てどこかの大学へ行く必要があったんです.
先生は香川出身で広島大学出身でしたね.
はい.それで自分の好きな技術的な分野を勉強するとしたら工学部ということになりました.何かを発明するというようなことが好きだったんですよ.そして工学部の中でもいろいろありましたが,最終的には土木を選びました.
卒論の時点でコンクリートを対象にした研究だったのですか?
はい.コンクリートの研究室に入りました.
研究者になってよかったと思いますか?
そうですね.研究者は一種の自営業みたいなもので,自分の好きなことが自由にできます.そういう意味ではとても楽しいです.
研究室の学生さんたちとはどのように付き合っていますか? はたから見ていると氏家先生の研究室は勢いがあって楽しそう見えるのですが・・・
最近はなかなか僕自身に時間がなくて学生さんとの付き合いもあまり密ではないですね.僕が学生時代には,先生と一緒にしょっちゅうお酒を飲んだり,遊んだり,研究室で旅行に行ったりしました.今はそれが少ないので反省しています.
研究室の雰囲気は学生さんによってつくられるものでもありますよね.先生はどんな学生さんに研究室に入ってきてもらいたいですか?
まずは実験を厭わないことですね.あとは「なんでかな」という好奇心を持っている人にきてもらいたいです.実験は,ただ単にいわれたことをやるのではなく,自分で「なんでかな」と思ってやっていると楽しいんですよ.
話は変わりますが,趣味や好きなスポーツなどはありますか?
大学時代からゴルフをやっています.あとは,息子が小さいころにチームに入っていた関係で,野球のリトルリーグの手伝いをしています.
どうりで色が黒いわけですね(笑)
地が黒いんですよ(笑)
では最後に,これから大学に入ろうとしている皆さんにメッセージをお願いします.
大学時代に知り合った友人はずっと付き合うことになるので,まずはいい友人を見つけてほしいと思います.また,大学時代に勉強したことは必ず将来的に自分と関係してくるので,興味を持って勉強してほしいと思います.そうすれば学生生活を楽しく過ごせるというのが僕の経験です.