研究室訪問

 今回は機能材料工学コースの黄木景二助教授にお話を伺いました.
 黄木先生は東京大学大学院工学系研究科博士課程(航空宇宙工学専攻)を修了後,九州大学応用力学研究所助手を経て,平成12年4月に愛媛大学工学部機能材料工学科講師として着任されました.

まずはじめに先生の研究について教えてください

 材料の機械的強度・寿命や破壊について研究しています.つまり材料がどれくらいの力にどれくらいの期間耐えられるか,そしてそれがどんなふうに壊れるか,について調べる学問で,材料強度学などと呼ばれています.

それは具体的にどういう役に立つのでしょうか?

 材料の強度や寿命がわかっていれば,機械や電気電子機器などの構造を設計するときに,どのくらいの寸法にしなければいけないのか,どんな形状にすればよいのかを決めることができます.またどのように破壊したかがわかれば破壊しにくい材料を開発することに役立てることができます.

では先生はどんな材料について研究していますか?

 繊維強化複合材料と呼ばれる材料です.材料に繊維を混ぜることで剛性や強度が増します.剛性というのは変形しにくさのことで‘堅さ’のようなものです.私が扱っているのは飛行機やスペースシャトルなどの構造に使われる複合材料で,プラスチックやセラミックスを炭素繊維やガラス繊維などで強化したものです.その特徴は軽くて強いことです.金属は剛性も強度も優れていますが,比重が大きいので飛行機に使うには不利です.一方,プラスチックやセラミックスは金属より軽いのですが,それ単体では強度が足りない,もろくて壊れやすいなどの欠点があります.そこで軽さと強さを兼ね備えた繊維強化複合材料の出番が来るわけです.ボーイングやエアバスの最新の旅客機にはこの繊維強化複合材料がたくさん使われています.

飛行機以外には使われていないのですか?

 そんなことはありません.たとえば皆さんの身近にあるテニスラケットや釣竿,ゴルフクラブなどにも繊維強化プラスチックを使ったものがあります.他にもパソコンの筐体などにも使われています.この場合は軽さと強さだけでなく,電磁波シールド機能も利用しています.また最近では,自動車に使用するための研究開発も行われています.自動車を軽量化すればそれだけ燃費がよくなり,二酸化炭素が減るので環境にも優しいというわけです.しかし,そのためには衝突安全性をしっかり確保するための構造・材料設計が必要です.また今後はリサイクルの必要性も増してくるでしょう.

飛行機やスペースシャトルの話が出てきましたが,子供や学生時代の夢だったのですか?

 子供の頃は天文学者になりたかったのです.天体望遠鏡ではじめて木星の衛星や土星の輪を見たときの感動は忘れられません.大学でも天文学を専攻したいと思ったのですが,迷った末に現実路線で工学部に進みました.それでも航空宇宙工学を専攻したのは少しでも空や宇宙に近づきたかったからかもしれません.当初は飛行機の設計がしたいと思いましたが,才能がないことに気づき,研究者になりました.やがてその素養もないことに気づきましたが,日々の努力で補っています.

学生時代の様子を教えてください.

 東京で9年半の学生時代を過ごしました.学部生として過ごした時間の半分は勉強,残り半分は陸上ホッケーでした.なんだかいつもおなかを空かしていたような記憶があります.ずっと下北沢界隈が生活圏でしたので,私にとって第2の故郷ともいえます.大学院に入ってからは勉強や研究に打ち込みました.今でも自分の原点はここにあると思っています.

その後ずっと大学にお勤めですか?

 はい.助手としてスタートして以来,ずっと大学にお世話になっています.ただし学生時代と海外を含めて愛媛大学は4つ目の大学です.助手の頃は象牙の塔にこもるのも悪くないと思っていましたが,今ではなるべく産業界にもかかわって世の中の動きを知るように努めています.微力ながらでも社会貢献できればうれしいですね.

ところで趣味は何ですか?

 人に自慢するようなものはありません.いろんなことをかじったのですが,長続きしたものはありませんでした.今はドライブとSF小説を読むことです.私のドライブは,市内のスーパーに行ったついでに桂浜に寄るといった具合に,走り出したら止りません.これはイギリスで在外研究をしていたときの後遺症です.夕方帰宅してからでもストーンヘンジまで日帰りドライブしたものです.ただ無料のモーターウェーを1日中走っていたので,それ以来,道路を走るのにお金を払う気がしなくなりました.SFはスペースオペラです.頭のリフレッシュが目的ですが,どうせ読むなら気宇広大な話がいいですね.たった1行でアンドロメダまでひとっ飛びみたいなテンポの速い話が好きです.

スケールの大きい話ですが,仕事もその調子ですか?

 仕事のスケールは小さいのが特徴です.ある現象を解明するのに,自分で仮説を立て,実験を行い,数学的なモデルを作るのが私の研究スタイルです.実験してはモデルを考え,また実験してはモデルを修正する.こつこつと地味な作業ですがこの繰り返しの過程が研究者としての醍醐味ですね.地味といえば,焼き物も好きです.素朴な味わいのものがいいですね,小石原焼とか.

研究者以外の顔というのはありますか?

 もちろん教員として講義やゼミで学生に教えるのも仕事です.教えることは自分の理解を深めるのに役立つし,そもそも好きなのかもしれません.教育者としてはまだまだ未熟者ですが.学外では学会員や学識経験者としての活動があります.そして家に帰れば父親です.

最後に若い方々にメッセージをお願いします.

 若い頃は夢を持つことが大切です.初めの夢を実現できなくても,その過程で努力すれば,また次の夢を持つことができます.そのためにはいろんなことを見聞きし,体験することが必要です.そして他人と違うことがその人の存在価値です.失敗を恐れず誰もやらないことにチャレンジしてほしいと思います.