研究室訪問

 こんにちは.工学部広報委員の機械工学科の豊田です.いよいよ工学部の最強レスラー?野村信福先生を紹介することになりました.しかし,私は野村先生とは同期であり,公私にわたって非常に親しい間柄です.日頃は,お互いを「トヨちゃん」(豊田),「ラッシャー」(野村)と呼び合う仲であり,改めてインタビューというのも,なんだか非常にやりづらいので,今回は私が顧問を務める二宮翔会(愛媛大学航空力学研究会・毎年,鳥人間コンテストに出場している,愛媛大学で最も有名なサークルの1つ)の部員で,紅一点の福本菜々美さんにインタビューしてもらうことにしました.では,福本さん,あとは宜しくお願いします.

福本:ということで,ご紹介に与りました福本です.野村先生,日頃は,私たちのサークルを応援して頂いてどうもありがとうございます.今日は,先生に“まじめに”研究の話をお伺いしようと思って研究室を訪問させて頂きました.さて,野村先生と言えば,液中プラズマの研究について教えてもらわないといけませんね.液中プラズマというは一体何ですか?

 いきなり,液中プラズマですか.福本さんは法文学部でしたよね.できるだけわかりやすく説明しますね.ところで,そもそもプラズマって何か知ってますか?.通常,我々が知っている多くの物質は,固体,液体,気体という3つの状態をとります.これを物質の3態と言っています.これらの違いを分子レベルで見てみると,固体から液体,気体となるにつれて,物質を作っている分子の運動は激しくなっていきます.ところが,この気体をさらに加熱して,どんどんエネルギーを加えていくとどうなるのか?すると,気体中の分子や原子から電子がはぎとられて,正のイオンと自由電子がバラバラに存在する状態が発生します.これがプラズマです.電子が飛び回っているので,ビカビカ光が光っています.このプラズマ状態まで含めて,物質の4態と言っています.身の回りには多くのプラズマが存在しています.身近なものでは,蛍光灯がプラズマです.夜空の星や太陽が輝いているものプラズマだし,オーロラや雷もプラズマです.液中プラズマとは,液体中でプラズマを発生させるという技術です.

福本:氷を加熱していくと,氷から,水,水蒸気と,変化していくのはわかりますが,さらにその上の状態がプラズマということですか.

 そうです.液中プラズマとは,液体中の気泡の中にプラズマを発生させるという技術です.例えば,超音波で気泡を発生させ,その気泡に電磁波を照射することでプラズマが発生します.超音波は眼鏡の洗浄器などに使われているもので,眼鏡を持っている人ならよく知っていますよね.液体の中に眼鏡を入れて超音波をかけると,細かい泡がたくさん発生しているのがわかります.この泡,専門用語で音響キャビテーションと言うのですが,これに電磁波をあてると,この泡の中にプラズマが発生します.電磁波は電磁レンジに使われています.今では,調理器具として,必要な電気製品ですよね.もっと言うと,液体の中に気泡を作って,これを電子レンジの中に入れれば,気泡の中にプラズマが発生するのです.実際は,液体の種類によって,電磁波の種類(周波数)を変える必要があるのですが,現在はほとんどの液体中でプラズマ発生を発生させることができるようになりました.

福本:具体的に何ができますか?

 例えば灯油を用いれば,液体内の炭素が他の物質と結合し,アモルファスカーボン膜やカーボンナノチューブの製造にも利用できます.成膜レートは気相プラズマの約1万倍の速度に達します.これは,周りが液体なので,非常にたくさんの原料を供給することができるからです.さらに周りが液体なので,材料が燃えることなく,プラスチックや紙などにいろいろな物質をメッキすることも可能です.まだダイヤモンドの合成には成功していませんが,プロセスを最適化すれば,炭素をダイヤモンドに変形させて取り出すことが必ずできると思っています.また,プラズマ内部の温度は5000℃に達するので,反応炉としていろいろな物質が作れると思っています.

福本:夢のような話ですが,聞いてみると意外に単純な技術ですね.

 そうです.今となっては,非常に簡単なことです.コロンブスの卵みたいなものです.しかし,これも,私と,相棒の「トヨちゃん」がめぐりあっていなかったら,誕生するのに,かなりの時間がかかっていたでしょう.

福本:どういうことですか?

 私は,もともと超音波の研究をしていて,超音波によって作られる気泡内の高温高圧場を反応炉として利用する研究を進めていました.気泡内部の温度は5000℃になるのですが,時間が非常に短いために反応炉として利用することは困難がありました.一方,トヨちゃんは気体中のプラズマを使ってダイヤモンドを合成する研究を行っていたのですが,気体中のプラズマの成膜速度では限界があると言っていたのです.原料が気体中と比べて豊富にある液体中でプラズマを発生できたらと2人で話しあっているうちに,液体中の気泡内を反応炉として利用するということが液中でプラズマを発生させることと同じだということに気がつき,着想から,2年の歳月を経て,世界初の電磁波液中プラズマが生まれ,2003年12月に物理系外国専門雑誌に発表しました.

福本:出会いは大切ですね.

 歴史に”if”はないというのが,私の持論ですから,どういう形であれ,トヨちゃんとはどこかで出会って,液中プラズマを開発する運命にあったと思います.まあ,男女に限らず,人生,出会いというのはとても大切だということですかね.まあ,人間1人だけでできることは知れていますからね.

福本:今後の目標は?

 液中でダイヤモンドを合成したいですね.成膜レートを上げるには,気体の1000倍の密度がある液体を使うほかありません.実現すればダイヤモンドで半導体が作れるようになるでしょう.さらに,核融合装置を液中プラズマで実現させて,エネルギー問題を一挙に解決したいです.これらは私の夢でもあるのですが,是非,愛媛大学に入学して,私達と一緒に,夢を追ってみませんか.

福本:では研究の話は,これぐらいにして・・・先生は学生時代,プロレスをやられていたそうですね.

 おっと,どこからその情報を!?

福本:有名な話ですよ.先生のニックネーム,”ラッシャー”は,リングネーム「ラッシャー輪島」から来ているのですよね?なぜ,プロレスに惹かれたのですか?

 プロレスは世間一般では,”ショー”だと言われていますが,それは大きな間違いです.プロレスこそ,最強の格闘技です.彼らがリングにあがる前までの練習量は半端じゃありません.プロレスラーはわざと相手の技を受けます.そのような格闘技は他にはありません.プロレスの基本は,例えば相手が70%の力しか持っていなければ,自分はわざと相手の攻撃を受け,相手の力を100%まで引き出させておいて,自分は120%の力で捻じ伏せるというものです.これがプロレスの基本精神なのですよ.自分より力の劣る人間にあっさり勝つだけでは,何も生まれないし,得るものもありません.勝敗だけの問題ならアマチュアスポーツで十分です.如何に観客を満足させるか.そこまで考えるのがプロフェッショナルです.プロレスは非常に発達したエンターテイメントですから.
 実はこれは教育にもいえることなのです.学生の力が20%しかないとしたら,それを100%まで引き出してやる.それが教育者の役割です.まぁ最後は120%の力で捻じ伏せるのですけど(笑).
 学生の力をどれだけ引き出せるか,そこが大切なのですよね.そういう意味でプロレスと教育には通じるものがありますね.教育もエンターテイメントですよ.我々はプロなのですから.

福本:ところで,野村先生はしばらくアメリカに行かれていましたが,アメリカでの生活はどうでしたか?

 ご存知の方も多いと思いますが,アメリカという国は良くも悪くも競争社会です.ただし,日本でいう“敬語”という上下関係を示すような言葉もアメリカにはあまり存在しません.学生は先生をファーストネームで呼びますしね.授業中の学生の聴講態度も良いとはいえません.さすがに私語を話す学生はいませんが,非常にラフなスタイルで授業をうけています.でも,結果が出せなければ,いくら頑張っても評価されない社会です.だから,シビアな世界です.でも,何度でもやり直しができるのもまた,アメリカ社会です.事実,日本でうまく行かなかった人でも,たくさんアメリカで成功している人をたくさん見てきました.

福本:「hey! Shin!」:・・・じょ,冗談です ヽ(゜◇゜ヽ)

 あと,留学先がシアトルだったので,日本食には全く不自由しませんでした.宇和島屋という日本食専門スーパーがあるのですが,名前から推測できるように,創業者は愛媛県出身者だそうです.外国に日本人会という集まりがあるのはよく耳にしますが,シアトルでは,愛媛県人会というように,日本の県レベルでの集まりがありましたから,これには驚きました.また,何かの機会にお話したいですが,日本のよいところはどんどん吸収しようとする開拓精神は感じましたね.

福本:これから大学に進学する高校生の皆さんに一言お願いします.

 私の嫌いな言葉に「終わってみれば惜しかった」があります.なんだかんだ言っても,強いやつは最後には勝つと言う意味です.結局,負けるやつは"惜しかった"止まり.勝負ごとには勝たなければ意味がないということです.ですから「惜敗」という言葉も嫌いです.勝負の世界に生きる人は,そこを乗り越えるために頑張っているのですから.その紙一重の差が実際は非常に大きな差なのだということを常に認識しておくべきです.アメリカの大学には入学式はありません.入学することに意味がないからです.実際,誰でも入学できます.今の少子化の時代,受験勉強なんかそんなに時間を割いてやる必要もないでしょう.大学なんて簡単に入れますし,入試形態も多様になってきています.ちなみに,アメリカで仕事を探すときの書類の記入欄に,どこの大学を卒業しましたか?というのがあって,そこの選択肢が,東大,京大,その他の大学の3択でした(笑い).東大や京大へ行くという学生は無理に引き留めませんが,それ以外なら世界からみればどこも一緒です.迷わず愛大受験して下さい.そんな無駄な受験勉強するくらいなら,自分の好きなこと,興味のあることに時間を割いて下さい.そして,ラッシャーと一緒に,過激な大学生活を愛大で送りましょうよ.うちの研究室にはベンチャー企業の学生社長もいますよ.

福本:ところで,先生がこのようなインタビューを受けるのは初めてだそうですね.意外な気がしますが.

 ハハハ,そういうわけでもないのですけどね.ただ,いつも過激な話ばかりするのでほとんど黒塗りになって,「ぼつ」にされているだけです.だから,取材を受けてもなかなか記事にならないのでいつも安心しています?今回は,できるだけ,カットしないようにしてくださいよ.(笑)

福本:今回もキワどい発言はすべてカットしておきます(笑)

 次回は私の相棒の豊田先生にもインタビューしてみてください.かなり危険な話が聞けますよ.

福本:あの・・・できれば記事にできる話をお願いします ( ̄▽ ̄;)

 あっ最後にこれだけ言わせて下さい.今まで世界を制してきた人間には左利きが多いというのを知っていますか?「左は世界を制する」という言葉があります.もともとはボクシングで,左ジャブの重要性を説いた言葉ですが,私は「左利きは世界を制する」という意味で使っています.スポーツの世界で,左利きは有利だと言う意味です.左利きにとって,右利きとプレイするのは普通のことだが,右利きプレイヤーにとっては違和感があるので,左利きのトッププレヤーは長く王者に君臨できるという意味です.

福本:そうなんですか?そういえば,野村先生は・・・?

 フフフ,左利きに決まってるじゃないですか.

Σ(゚口゚;

 だから,まだまだアドバンテージがあると思って,研究を粛々と進めているのですよ....
 それより,福本ちゃん,こんなところで私のインタビューしているより,来年の鳥人間が大丈夫か?来年は,鳥人間コンテストで,大記録がでることを期待していますよ.そうそう,人力飛行機やって見たい人もぜひ愛媛大学来てくださいね.

 じゃ,最後にラッシャーの”キメ”のポーズで記念写真をとって終わりにしましょう.
 はい,ポーズ!