研究室訪問

 今回は環境建設工学科の岡村先生を訪問し,お話を聞かせていただきました.岡村先生は東京工業大学大学院を修了後,国土交通省土木研究所(現在は独立行政法人)で研究員をされ,2004年度から愛媛大学工学部環境建設工学科に助教授として着任されました.岡村先生は防災について研究されているのですが,今回は具体的にどのような研究をされているのかについて,お話いただきました.また,これから大学に進学する人たちへのメッセージもお聞きしました.

まず,岡村先生の研究テーマについて教えてください.

 研究テーマは「地盤」です.われわれは常に土の上に立って生きていますが,ただ立っているだけではなくて,色々なものを土の上に建てて生活しています.土台としての土,つまり「地盤」がしっかりしていないと建物が傾いたりするわけです.この地盤がどれくらいしっかりしているのか,たとえば地震や台風のときに丈夫なのかどうか,洪水のときにどうなるのかというような,「地盤の安定性」を研究するのがテーマです.

「地盤の安定性」というのはどうやって調べるのですか?

 方法にはいろいろありますが,長い棒のようなものをたたいて土に刺して固さを測ったり,超音波やX線を使って地盤の中を探ったりし,それらを元にしていろいろな計算によって安定性を調べます.ただし,地盤は自然のものなので,ものすごく不均一で,精密に調べようとするとかなり手強いんですよ.

生活の安全と関わっているようですね.

 ええ.具体的には地盤といってもいろいろ問題があります.たとえば,家を建てるとズブズブと沈んで傾いてしまうような軟弱な地盤,土砂崩れを起こす斜面,普段はしっかりしているけれども,地震でゆすられると突然液体みたいに強度がゼロになってしまう「液状化」が起こるような地盤もあります.地震のときにどのような場所がどのくらい地震に弱いのか,弱いところがあったらどうすれば効率的に強くすることができるのか,ということが地盤工学の分野では大きな課題になっています.日本は,道路や鉄道,上下水道などの社会基盤といわれる公共設備が圧倒的に不足していた時代が終わり,現在は安全で安心な社会を作ることが社会基盤整備の目標の一つになっているのです.
  私は,地震のときに地盤がいかに壊れないように設計するのかということ,もう一つは,すでに危ないところに建っている構造物を,いかに「安く」危なくないように補強するのかということを研究しています.

なるべくお金を節約できるようなことを考えているのですね.

 今,公共事業に使えるお金は数分の一に減っています.地盤に関する工事にはとても費用がかかるので,たとえば津波を防ぐための防波堤にしても,十分な補強ができないというような例もあります.技術的には可能でも,防災にかけるお金がないから補強できず,人々を見殺しにすることを放っておくことは出来ません.一人でも多くの人を災害から救えるように,補強技術の大幅なコストダウンを実現することが技術者・研究者としての私の使命だと思っています.

具体的にはどのような方法で研究を行なっているのでしょうか?

 極めて安価な液状化対策技術の開発をしています.具体的には,今のままでは地震のときに液状化が起こって沈んでしまうような防波堤の補強を,劇的に安くできる方法の開発を実験やコンピュータ・シミュレーションなどを駆使して行っています.

話は変わりますが,岡村先生はなぜ工学部に進学しようと思ったのですか?

 「もの」をつくるのが好きだったんですよ.子供のころ,当時は高価だったトランシーバーを買ってもらったことがありましたが,中身がどうなっているのかが気になって次の日には早速バラバラにしてしまって,一回もトランシーバーとして使わずに壊してしまったことがありました.機械や電気や建築にも興味がありましたが大学は土木の学科に入学しました.

大学に入学したあとで研究をしようと思ったのはなぜですか?

 3年生まではみんな同じ教科書で勉強をしたのですが,4年生の卒業論文で自分のテーマを持つようになりました.自分だけの独自の研究を行っていることの責任感と充実感,それから実際に研究をやってみたら面白かったことがあります.研究はやればやるほど面白くなりました.もともと凝り性で一つのことに没頭しやすいタイプなので,横並びの勉強から独自の研究課題に取り組むような環境になって,すっかり研究にのめりこんで大学院に進んだという感じです.

岡村先生の研究室に入ってくる学生さんに要望がありましたらよろしくお願いします.

 なにかに立ち向かう「ガッツ」を持ってほしいと思います.そして,何か「これは」と思うことを一つだけでもいいから持ってもらいたいです.

「ガッツ」というと体育会系のような印象を受けるのですが,岡村先生は何かスポーツをやっていたのですか?

 そのとおり僕は体育会系なんですよ.小学校のころは野球をしていて,中学から去年までサッカーをやり続けていました.

その経験は現在になにか役に立っていますか?

 我慢強くなったという意味では役立っているかな,という気はします.ずっと運動をしているのは,先ほど言ったとおり凝り性ということが関係していると思います.

最後に,これから大学に進学する高校生の皆さんにメッセージをお願いします.

 今の自分の実力がこの程度だからこのくらいの大学にしようとか,自分の実力はこの程度だからこのくらいのところに就職しようなどと考えるのではなく,たとえば「もの」をつくりたいとか環境を良くしたいとか,具体的な目標を持ってほしいと思います.「これをやりたいからやらせてくれ」という学生さんは,例えそれまでの成績が良くなくても必ず伸びますし,社会に出てからも成長します.なるべく早い段階で「これをやりたい」という自分が燃えられるものを見つけてほしいと思います.

今日はお忙しいところをありがとうございました.