研究室訪問

 今日は機能材料工学科の板垣先生を訪問し,お話を聞かせていただきました.板垣先生は広島大学大学院工学系研究科博士前期課程,後期課程を修了後,スウェーデンのリンシューピン大学に2年間留学され,後に広島大学大学院工学研究科(平成12年4月~平成14年3月),近畿大学分子工学研究所(平成14年4月~平成15年3月)を経て平成15年4月に愛媛大学工学部機能材料工学科に助手として着任されました.今回は板垣先生に,研究テーマ,趣味,そして高校生へのメッセージを語っていただきました.

まず研究テーマについて聞かせて下さい.

 はい.私は,機能性セラミクス材料や有機色素を用いた化学センサの開発や環境汚染ガスの検出を行なっています.

化学センサは良く耳にする言葉ですが,どのようなものですか?

 そうですね.化学センサは主にガス物質との化学反応を利用して,それを電気や光などの物理信号に変換する素子です.つまりその出力信号の強さからガスの濃度を知る事ができるものです.私たちの体も五感という5つのセンサを持っているわけですが,ガスの種類や量を判別するという意味では,化学センサは嗅覚に最も近いと思います.匂いを嗅ぎ分けるセンサを”人工電子鼻”と言ったりしますからね.私は,セラミクス材料を用いて化学センサを作り,微量有害ガスに対する検知特性について研究しています.セラミクスはご存じの通り陶器などの材料ですが,それだけではなくて,中には半導体,誘電体や固体電解質など様々な用途に用いられているものがあり,化学組成などからその性質を容易に変化させることが出来る優れものです.さらに安価であることから,安くて高性能なセンサを作り出すことが期待できるわけです.

セラミクスというのはいろいろなものに使われているんですね.高性能なセンサとおっしゃいましたが,具体的にどういうセンサのことなんですか?

 ガスによっては微量でも有害性を示すものもありますから,それだけ感度の高いものが必要ですし,測定環境中でガス濃度は刻一刻と変化しますから,応答性に優れたものでなければなりません.それと,もう一つ大事な性質としてセンサの安定性があります.つまり性能が変化しないということです.最初の二つはほぼクリアされているのですが,安定性はまだ完全とは言えないのが現状です.長期にわたって安定なセンサをつくることが研究テーマといってもいいかもしれません.

たしかに使っているうちに性能が変わるようなセンサでは使う側にとっては不安ですよね.

 そうなんです.センサ素子の中には異なる材料を接合して作るものもありますから,いかに相性の良いセラミック同士を組み合わせるかが重要です.二つの材料がお互いにけんかすると素子自体が壊れてしまう事もありますから.セラミクスの中には化学的に安定なものもあれば不安定なものもあります.単に安定なものを探すだけなら容易な事なのですが,安定でかつ優れたセンサ材料となると話はそんなに簡単ではないんですよ.だからこそやりがいがあるんですけどね.センサ作動中に起こる副反応をつきとめて,反応を起こさせないように構造や材料の改良を行なう必要があります.また,完全に安定化しなくても,その劣化機構をきちんと押さえていれば,センサの校正を行ないながら使用することだって可能です.

そうですか.冒頭で微量ガスの検知をされていると聞きましたので,高感度センサをつくることが最重要だと思ったんですが,それだけではだめなんですね.

 そう理解してもらえるとうれしいです.

先生は以前からセンサの研究をされていたんですか?

 いいえ.実は,この研究をはじめてからまだ2年なんです.以前私は,ESRという手法を用いて不安定化学物質の構造や分子運動といった基礎的な研究を行なっていました.この研究は,宇宙(-260℃ぐらい)で起こる反応や星間物質のモデル研究としてとても大事な研究です.

センサとはかなり異なる分野ですね.

 そうですね.化学センサも本質的には電子移動過程が重要ですから,以前やっていた事の知識が生かされている面もありますよ.ただし,化学材料のような原子や分子の集合体では,一分子からでは予想もつかないような性質を発揮する事があり,とても面白いですね.

大学は工学部に進まれたわけですが,その理由を聞かせて下さい.

 私が子供のころは(そんなに昔の話ではありませんが(笑)),今のような遊び道具はなく,中学生ぐらいの時にようやくファミコンなどのTVゲームが出て来たと記憶しています.田舎町でしたからそういうものの普及も少し遅かったですね.遊びたければ,自分で遊びを考えたり,それに飽きると遊び方を変えて遊んでいました.今にして思えば,これが工学に進みたいと思うようになった原点だったかもしれません.“ものを作ってそれを改良する”っていうのは工学部でないと味わえない楽しさですよね.今でも,実験装置を手作りで作成したりする時には,たまに懐かしい気持ちになります.

スウェーデンに留学されていたとお聞きしましたが,そのときの思い出を聞かせて下さい.

 いろいろありますが,真冬に日本の友人とオーロラを見にルレオという北の町へ行ったのを覚えています.

オーロラですか.見られましたか.

 残念ながら見る事は出来ませんでした.しかも,ちょうどクリスマスの日で,バスは一時間に一本,しかも町中のすべて店が閉まっていました.外はマイナス25℃.一時はどうなることかと思いましたよ.なんとか教会の中で暖をとることができました.あとで聞いてみると,オーロラなんてそうそう見られるものじゃないらしいですね(笑).
  あと,スウェーデンにはスウェーデン語という母国語があるんですが.せっかくスウェーデンンにいるんだからということで,留学生用のスウェーデン語の授業を3か月間とりましたね.最初は,スウェーデン語どころか授業の英語がよく分からず,お手上げ状態でした.それでも試験を受けてなんとか単位をとる事が出来ました.でも単位認定書のスウェーデン語が分からず,後になって,友人に聞いてようやく単位を取った事を知りました.うれしいやら,悲しいやらでしたね.

いろいろ経験されたみたいですね.留学されて良かった事はどんなことですか.

 そうですね.やはり環境の大きく違うところで,周囲の人間となんとかコミュニケーションをとりながら,いくつかの仕事を投稿論文としてまとめることができたので,大きな達成感がありました.楽しい事と同じぐらい不安はありましたが,良い経験ができたと思っています.

さて,話は変わりますが,ここで先生の趣味を教えて下さい.

 趣味ですか.スポーツなら大体何でも好きですよ.スキーとかの滑りものは苦手ですが.小さい頃から野球をやっていたので,今でもスポーツと言えば野球が一番好きですね.あと大学でゴルフ部にいましたので,今でもたまにやっています.あと今はあまりやらなくなったのですが,ジグソーパズルとか好きでした.見本を見ながらピースを探して探して,ようやくはまった時には結構快感です.そういえば一回真っ白のパズルに挑戦したのですが,途中で断念しました.難しい上にぜんぜん楽しくなかったので.

最後にこれから大学に進学する高校生のみなさんにアドバイスがあれば聞かせて下さい.

 大学へ進学される方は,どこの大学の何学部にしようかと迷っている人もいるかも知れません.私は工学部というのは決めていたのですが,高校時代の化学の先生の授業が好きで,化学に進もうと思うようになりました.今でも化学よりの研究をしていますが,化学だけの知識ではなかなかいいアイデアが浮かんできません.時には物理や生物の知識も必要です.大学に入って最初に出会う学問を入り口として,そこからいろいろな分野に目を向けていただきたいと思います.大学に入ると,実験の時間がたくさんあり,4回生からは卒業研究で自分のテーマを決めて研究を行います.研究はいかにも難しく苦しいもののように思いがちですが(確かにそういう場面も少しはありますが),とにかく研究を楽しく”遊んで”ほしいと思います.遊びは工夫次第で面白くもつまらなくもなるものです.

有り難うございました.今日はいろいろとお話を聞かせていただきました.今後の先生のご活躍に期待したいと思います.